生産性
2019/05/31
2017.4 養豚界 (株)スワイン・エクステンション& コンサルティング 大竹聡先生

IPCの効果を検証

前回は豚の個体診療(IPC)について解説しましたが、今回からはIPCの実例として発表されている文献を要約し、その効果を紹介します。今回は「Swine Health and Management」に掲載された「豚個体ケア・プログラムによる肥育豚の生産成績および健康状態の改善」を取り上げます。

IPCプログラムが生産性に与える影響は?

引用文献
Pineiro C, Morales J, Dereu A, et al. Individual Pig Care program improves productive performance and animal health in nursery-growing pigs. J Swine Health Prod. 2014;22(6):296-299

はじめに

ヨーロッパの養豚生産先進諸国では、抗菌剤のより賢明な使用の推進を目指している。一方で動物の健康や福祉には、疾病コントロールのため有効かつ経済的に持続可能なシステムが必要であり、ワクチンと抗菌剤、両方へのニーズが存在することも事実である。

これら両方を満たすため、病豚の早期発見と速やかな対応を目的として、豚の個体診療(IPC)プログラムという新しい管理ツールが開発された。

これが従来の管理・治療プロトコルと比較してどの程度生産性に貢献するかを調べるため、野外農場において試験を実施した。

試験農場の概要

  • ・スペインにある母豚700頭の一貫生産農場
  • ・農場健康状態は中程度[豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)=陽性、離乳子豚の大腸菌症発生率=高]

試験方法

  • ・4部屋、1部屋当たり24ペン(2.5×2.8m)
  • ・23日齢(離乳日)の離乳子豚368頭を無作為に雌雄同数になるよう群分けし、90日齢まで観察(1ペン当たり23頭収容)
  • ・試験デザイン:表参照
  • ・測定日:23日齢、63日齢、90日齢
  • ・測定項目:体重、飼料摂取量、1日平均増体量、1日平均飼料摂取量、飼料要求率、各群の死亡頭数、疾病発現状況を毎日記録。IPC群は病豚の分類(A、B、C、E豚)とその頭数、治療情報も記録
試験デザイン
※IPCのコンセプト、病豚の分類基準などは2017年3月号を参照

結果

対照群43.4%、IPC群52.7%の豚が離乳後に何らかの疾病を発症した。対照群は離乳から7日以内に全頭、飲水投薬を実施。症状が深刻だった43.4%の豚にはさらに抗菌剤を注射した。

IPC群は病豚と判断された52.7%の豚に抗菌剤を注射した。約80日齢に両群ともPRRSの典型的な症状(食欲減退、呼吸器症状など)が認められた。主な生産成績は図1〜4に示す。

図1:体重(90日齢)
図2:1日平均増体重(試験期間内)
図3:飼料要求率(試験期間内)
図4:事故率(試験期間内)

考察

IPCプログラムの実施によって生産成績を改善することが明らかになった。このプログラムによる病豚の早期発見と早期治療により、最小限の治療で速やかな回復を遂げたと考えられる。IPCプログラムは、抗菌剤使用の記録を適切に、正確に、迅速に作成するための新しいプロトコルとなり得る。この記録は薬剤の使用時期、使用量そして治療結果の証拠となる。

また、IPCプログラムによって管理者が疾病の初期段階である豚(A豚)を発見・治療できるようになり、離乳・肥育期の生産性が向上した。IPCプログラムを通じて個別治療に重点を置くことで、総合的な抗菌剤使用量の抑制と生産性改善が見込める。

日本でも機能するIPC

ここで紹介した試験は、IPCプログラムを遂行することで疾病治療の精度が上がり、生産成績が向上した具体例を紹介しています。また、生産成績改善の他にも、IPCプログラムは動物福祉の観点からも理屈がマッチしていますし、必然的に抗菌剤使用の適時適量を記録・モニタリングすることにもなり、まさに日本においても今後の疾病治療の将来の流れを見据えたプログラムだと言えます。

このプログラムが実際に日本の現場で広く普及・定着するためには、作業性の観点からある程度の工夫と妥協(記録方法など)が必要かもしれません。しかしそれも踏まえた上で、まずは農場における管理者一人一人の治療に対する意識・技術を啓発する良いきっかけとしてこのプログラムは機能するでしょう。

© S.Otake