豚の処理液から豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)のCt値を知ることは、離乳後に育成期でへい死リスクが高まる新生子豚を特定し、ワクチン接種を行うべきかどうかを判断するのに役立つことが、ゾエティス社の野外試験で明らかになりました1。
PRRS, PRDC | 2020.12.27 Pig Health Today
Ct値はPRRSによる育成期のへい死を予測し、ワクチン接種の判断材料となる
ホセ・アングロ 獣医師 ゾエティス(米国) PRRSスペシャリスト
PRRSウイルス陽性豚のワクチン接種の考え方は、養豚産業内でも大きく異なっていると、ゾエティス社のPRRSスペシャリストであるホセ・アングロ獣医師は述べました。
新生子豚がPRRSウイルスに感染している場合、ワクチン接種はしないという生産者がいます。一方で、経験則から、ウイルス血症を起こしている子豚の割合が約20%またはそれ以下であれば、ワクチン接種をするという生産者がいます。ほかにも、ワクチン接種によって育成子豚のへい死率は抑えられませんが、PRRSウイルス排泄量を減らすために、ウイルス血症の有無にかかわらずワクチン接種をする生産者がいます。
「ウイルス血症を呈している豚にワクチン接種をすると、ウイルス血症とウイルス排泄の期間を短縮できることはわかっていますが、ワクチン接種の効果を十分に得られない可能性があります。ウイルス血症の程度により、ワクチン接種をするメリットがあるのか不明でした」とアングロ獣医師は述べました。
この疑問に答えるため、アングロ獣医師らは、PRRS既往歴がある米国中西部の大規模養豚施設内の4つの母豚農場で野外での疫学調査を実施しました。
試験設定
「私たちは、子豚の断尾や歯切等の出生後処置時にPRRSワクチンを接種し、その子豚の育成期における成績を評価することにしました。加えて、Ct値を主な指標として、子豚にPRRSワクチンを接種する否かを判断するモデルを作成したいと考えました」とアングロ獣医師は述べました。
本試験では、4つの各農場にいる3,000頭の母豚に弱毒生ワクチン「フォステラPRRS」を年3回接種しました。フォステラPRRSは、PRRSの予防に役立ち、PRRSウイルス陽性豚群内の、1日齢以上で健康な豚への接種が承認されています。また、ウイルスに曝露される可能性があるPRRSウイルス陰性豚への接種も有効である、とアングロ獣医師は説明しました。
訳注:日本国内におけるフォステラPRRSの承認内容は添付文書をご参照ください。
全ての農場の従業員は、処理液を採取するトレーニングを受けていて、4~5日齢の子豚から、サンプルが汚染されないように注意しながら処理液を採取しました。週ごとにまとめた処理液をアイオワ州立大学の獣医診断研究所に送りました。
農場のうち1つでは、処理液を採取した後、子豚にフォステラPRRSを接種しました。また、試験期間中に母豚がPRRSに感染しました。残りの3ヵ所の農場では、子豚にワクチンを接種しませんでした。ワクチン接種群と未接種群の子豚に違いがあるかどうかを確認するために、4つの農場で育成期が終わる9週齢までへい死率を記録しました。また、ワクチンを接種した豚において、へい死率とウイルス血症の度合いに関連性があるかどうかを調べました。
Ct値が高いほど良い
Ct値は、処理液サンプルを定量的逆転写PCR(RT-qPCR)で検査して測定しました。ウイルスを同定するには複数回のサイクルが必要であり、そのサイクル数によってCt値が決まります。サンプルのウイルス量が多いとCt値は低くなり、サンプル内のウイルス量が少ないとCt値は高くなります。
「264頭分の処理液サンプルを検査した結果、Ct値と9週齢までのへい死率に有意な関連性があることがわかりました。Ct値が高くなるにつれ、育成期でのへい死率は低下しました」と、統計処理ソフトを使って試験結果を分析したアングロ獣医師は述べました。
「PRRSワクチン接種の効果は、Ct値から推定されるウイルス血症の度合いによります。ワクチン接種は、Ct値が低いほど、つまりウイルス量が多いほど、その効果が低くなります。Ct値が30以上になると、ウイルス量が少なくなるため、ワクチンの効果が向上します」と述べました。(表1、図1)
検査から学んだこと
「PRRSウイルスは、Ct値が高くても非常に低い保有率で浸潤していることが、処理液を検査してわかりました」とアングロ獣医師は言及しました。
PRRS陰性の子豚にワクチンを接種することが理想ですが、このプロジェクトでは、高いCt値で示される低レベルのウイルス血症を呈している新生子豚にワクチンを接種することが有益であると示唆されました。Ct値が中程度の子豚にワクチンを接種しても、 育成期のへい死は下がらないかもしれませんが、ウイルス血症やウイルス排泄量が減り、PRRSの臨床症状が最小限に抑えられるという間接的なメリットがあるはずです3」とアングロ獣医師は補足しました。


注意すべき危険信号
PRRSが離乳前の子豚に与える影響について、アングロ獣医師は公表されている文献を引用して説明しました。突発的にPRRSが発生しているとき、へい死率が10~40ポイントも上昇することがあります。子豚が生きながらえたとしても、二次感染が蔓延し4、治療費がかさむことになります。
低いCt値は危険信号ですので、ウイルス血症を呈している豚には処置が必要です。「Ct値が低い豚は治療が難航します。空いている施設があれば、その豚を隔離した方が良いでしょう。管理を強化したほうが良いかもしれません。 細菌による二次感染の治療に抗生物質を必要とするでしょう」とアングロ獣医師は述べました。
アングロ獣医師は、経験からPRRSの状態を把握するために、処理液を定期的に検査してCt値を調べることを生産者に勧めています。これは簡単で安価な検査方法だからです。
「30頭分の子豚の血清サンプルを5頭ずつ溜めて検査する費用は、何百頭分もの処理液を6つに分けて検査する費用に相当します5」とアングロ獣医師は強調しました。
「断尾や歯切等の出生後処置時の子豚にPRRS ワクチンを接種する価値があるかどうかを判断できるようになり、育成期の子豚や生産者の利益に及ぼす損失を大幅に抑えることができます」と、アングロ獣医師は述べました。
訳注:処理液や血清のPCR検査費用は米国におけるものであり、日本で同じであるとは限りません。
処理液
処理液とは、 豚の組織液を集めた検体のことです。 子豚の去勢や断尾時に出てくる睾丸や尾から採取する方法が一般的です。 処理液は、 血清や断尾時の血液スワブの検体よりも、 PCR検査でPRRS陽性豚を検出する感度が高いという報告があります6。
- 1.Angulo J, et al. Implementation of PRRS surveillance using processing fluids (PF) RT-PCR Ct value as predictor for nursery mortality. 26th International Pig Veterinary Society Congress, 2020.
- 2.Savard C, et al. Efficacy of Fostera PRRS modified live virus vaccine against a Canadian heterologous virulent field strain of porcine reproductive and respiratory syndrome virus. Can J Vet Res. 2016 Jan;80(1):1-11.
- 3.Ibid.
- 4.Holtkamp D, et al. Assessment of the economic impact of porcine reproductive and respiratory syndrome virus on United States pork producers. J Swine Health Prod. 2013;21(2):72.
- 5.Lopez W, et al. Porcine reproductive and respiratory syndrome monitoring in breeding herds using processing fluids. J Swine Health Prod. 2018;26(3):146-150.
- 6.Lopez W, et al. Monitor herds for PRRS using processing-fluids samples. National Hog Farmer. 2017 Nov 6.
- ※このコンテンツはPig Health Today(www.pighealthtoday.com) の許可のもと転載、ゾエティス・ジャパン㈱が和訳したものです。
(原文)Ct values predict PRRS nursery mortality, can guide vaccination decisions
https://pighealthtoday.com/ct-values-predict-prrs-nursery-mortality-can-guide-vaccination-decisions/


