農場分離で改善達成でも一貫農場では依然難題!
――(編集部) 今日は、お忙しいなか、ありがとうございます。過去四半世紀の間、世界の養豚産業はPRRSに大きなダメージを受け続けてきたわけですが、米国でこの間、どのようにPRRSのコントロールが進んできたのか、そしてワクチンに何が期待されているのか、うかがっていきたいと思います。
まずは現在の米国におけるPRRSを含む呼吸器病のコントロールがどういう状況になっているのか、お話いただけますか。
コナー 私は20年以上呼吸器疾患について考え、様々な試みも行ってきました。その間、常にその時点の状況を過去と比較しながら評価してきました。生産システムは大きく変化して、繁殖農場と離乳以降の農場を隔離する「分離生産方式」が基本になり、そうした農場では呼吸器病のコントロ ールがかなり進み生産性の改善が達成されましたが、一貫生産農場においては、呼吸器疾患は、まだまだ主要な課題として残されたままです。
米国には生産者の約半数が参加しているSHMPと呼ばれる豚病モニタリングシステムがあります。そのデータベースに基づくと繁殖豚群のうち1年に28%程度がPRRSの新たな野外ウイルス株に感染しています。過去に比べると改善してきてはいますが、最近3年間については横ばいか、あるいは悪化しています。今後、さらに対策を進めていく必要があります。 ※SHMP (Swine Health Monitoring Project) USDA, NPB, NPPC, AASV
―― PRRSウイルスが速いスピードで変異を起こして、米国でもしばしば病原性の強いウイルスが出現しているようですが、それらへの対応はいかがでしょうか?
コナー そこは、我々もまだまだ十分に対応できていません。米国では、繁殖農場と一貫生産農場でPRRSワクチンの使用が増えています。それによって重篤なPRRSの大発生は近年減少していますが、変異したウイルスが流行すると、また被害が大きくなり、それをワクチンで抑えていくという同じ戦略でコントロールするしかないのが現状です。

ワクチンでウイルス排せつの抑制・短期化
―― ワクチネーションによって、新たな変異株に対しても、被害を軽減することはできているわけですね。
コナー そのとおりです。新たな変異が生じたとき、その後の最初の1年間でも、一時的に重症度がかなり高くなる場合はありますが、発症率は通常のレベルで保たれており、産業界全体として受ける変異株出現のダメージは減少しています。
―― 米国でも、PRRS弱毒生ワクチンが使われるようになってから20年以上が経過していると思いますが、同じワクチンでも、その時々で評価も変わり、使い方も変化してきたように感じます。以前は、繁殖豚の免疫安定化には、圧倒的に馴致や血清の注射まで行われていましたが、最近は急激にそれらがワクチンに置き換わってきていますね。そこにはどのような背景があるのですか?
コナー 豚群が複数のPRRSウイルス株に感染するケースが増え、それが把握できるようになってきたことが最大の要因だと思います。そのなかで、3つの動機づけがありました。
第1は、母豚群の問題です。もし母豚が複数のPRRSウイルスに感染したとき、馴致では安定した効果が得られなかったのですが、ワクチンを使ったほうが発症の制御に高い効果があると認識されるようになってきたことです。
第2は、馴致した未経産豚と弱毒生ワクチンを接種した未経産豚の成績を比較した研究が報告されるなか、複数のウイルスに馴致させた豚群よりも弱毒生ワクチン接種群のほうが有意な改善が認められてきたことです。
第3は、PRRSワクチンを接種した子豚は、野外株に感染してもウイルスの排せつ期間がかなり短くなるということを明確に示した研究がいくつか報告されたことです。離乳子豚は、繁殖農場の近くで飼養されるケースが多いので、離乳サイトでの発症がワクチンで抑制されることで繁殖農場の母豚への感染リスクが下がり、実際に母豚の感染率が減少した農場もあります。
―― ワクチンには直接的な感染防御効果はないけれど、ウイルス血症を抑えることで相当、感染圧は下げることができるということですね。
コナー そうです。我々がこれまで長年にわたって学んできたことは、PRRSワクチンは従来のワクチンとは違うという認識をもって評価する必要があるということです。誰もが、完全に感染を防ぐワクチンが欲しいと願うでしょう。しかし、とくに繁殖の問題に関して、PRRS ワクチンだけでその効果を期待するのは現実的ではないということが分かっています。我々の目的は、繁殖から離乳にかけて、複数のPRRSウイルス株が動くことによる経済的な損失を減らすことです。そのために、従来から母豚の免疫安定の重要性は指摘されてきましたが、加えて最近では子豚へのワクチン投与の重要性が強調されてきているのです。
―― 日本の一貫生産農場では、そこの部分はより重要になりますね。
コナー 全くそのとおりです。分娩から出荷までの一貫生産を行っているのなら、離乳子豚を安定させないと、頻繁に母豚群への再感染が起こり、長期間にわたってウイルス変異を助長することにもなりかねません。
―― 具体的には、PRRSワクチンの接種率はどのように推移しているのですか。
コナー 先ほどもお話したようにここ3年ほどで大きく変わ ってきています。母豚群のワクチン使用率は3年前には30%くらいだったのが、今は50%程度です。肉豚では3年前は15%にも満たなかったと思いますが、今では60%近くにまで急激に増えてきています。米国では、生産システムが分離されていて、子豚へのワクチン接種は、その子豚が養豚密集地域に行くか、そうでない区域に行くかによって決定することが重要です。そこは常に留意しておいてください。
母豚への接種と子豚への接種は、どちらがより重要かということではなく、飼養状況に応じたそれぞれの対応で総合的な効果を目指すことが重要です。
地域ぐるみのPRRS清浄化を目指す成果は?
―― 米国では農場単位でまず清浄化すると同時に、地域的にも撲滅して再感染のリスクを低める動きが各地で盛んになっていると聞いていますが、それらの進捗状況はいかがですか。
コナー 米国では、地域ごとに多くのプログラムがあり、継続的に実施されています。概ね成果を発揮していると言っていいでしょう。個々の豚群で見ると、臨床症状の発生は非常によく抑えられているのですが、新たなウイルス株が侵入し、再び多くの農場に感染が広がることもあって、生産者を落胆させることも少なくはありません。それでも、それぞれのプログラムは各地域全体におけるPRRSコントロールを改善し、バイオセキュリティの意識をさらに高めています。地域の生産者が同じ方向を向き、獣医師との情報交換を通じて統一したワクチネーションプログラムが実施できれば、非常に効果的なコントロールが可能になります。
異なるワクチン、どう選択したらいい?
―― 日本では20年ぶりに新しいPRRSの弱毒生ワクチンが発売され、初めて選択肢が増えたわけですが、米国ではいくつものワクチンが販売されているなかで、どういう観点、評価でワクチンが選択されているのですか。
コナー メッセージはいくつかあると思います。1つは、同じ疾病に対して複数のワクチンが常に市場にあり、効果を試しながら、より自分の農場に合った製品を選択できる環境は非常に望ましいということです。繰り返しになりますが、ワクチンが使われ始めて20年の経験をしてきたなかで、 PRRS弱毒生ワクチンに対する期待が大きく変わってきています。今や米国で、PRRSワクチンで感染を防ぐことができると思っている生産者はおそらくいないでしょう。我々がワクチンに期待するのは、できる限り短期間で離乳舎を陰性化すること、母豚群の免疫安定化に要する期間を短縮し、陰性の子豚を離乳できるまでの期間を短縮することです。
「フォステラPRRS」に関して報告されている研究論文からは、このワクチンを接種することで、ウイルスの排せつ期間が短縮されることが示唆されています。また、他の弱毒生ワクチンとの比較試験でも、同じあるいは類似のウイルス株に対する十分な効果が確認されています。
―― 現場の生産者や獣医師としては、どう選択すればいいのですか?
コナー PRRSウイルスの遺伝子は、1年に約0.5%変異すると言われていますが、稀に大きな変異を起こすこともあります。しかし、そうして生じた新たな突然変異株に対するワクチンの効果となると、ワクチン株と変異株の遺伝子差異のみから判定できるものではなく、実際にワクチンを豚に接種し、臨床結果を評価しない限り分かりません。要するに、できるだけ他の条件を同じにしたうえで使ってみて、その効果を確認するしか方法はないということです。そのとき、子豚で試験をすれば、母豚よりもずっと早く結果を得ることができます。なぜなら、豚は離乳後すぐに感染する場合、接種したワクチンの反応は一般的にすぐに起こるからです。それを検知することで短期間での効果判定が可能でしょう。
米国生産者が目指す “ベースライン生産”
コナー 米国の生産者と獣医師のPRRS対策における第1の目的は、「ベースライン生産」を回復することです。ベースライン生産とは、1腹当たりの平均離乳頭数または増体成績、そして豚群全体がPRRSウイルスに感染する前の成績レベルにまで戻ることを意味しています。豚群内でまだ一部の豚がPRRSウイルスに感染している可能性があっても、豚群全体の生産性が回復して安定してくれば、農場全体の清浄化には至らなくてもベースライン生産は達成されることになります。まずそこを目指すことは、経済的に重要な目的と考えられています。
―― 最終的には清浄化を目指しながら、その過程でしっかりPRRSのコントロールができている状況が得られるということだと思いますが、それを達成するための課題は何でしょうか。
コナー まだまだ多くの課題が残っています。まず、豚群に入ってきた野外ウイルス株に対する免疫を十分に高めることです。とくに多数の母豚群内での自然感染の早さに追いつくための対応のスピードが求められます。PRRSウイルスは排せつ期間が長く、胎子または母豚群内でウイルスを排せつしない母豚にするためには、通常少なくとも20週はかかります。生まれながらにPRRSの野外ウイルスに感染している豚群は、分娩されたあと別のウイルスにも感染するようで、豚群内に複数の野外ウイルス株が存在し、豚群を安定化させることがますます困難になります。
―― それらへの対応の見通しはいかがですか?
コナー これらの課題は、PRRSウイルスが非常に突然変異を起こしやすく病原性が容易に変わってしまうことに起因するものです。また、PRRSウイルスは農場間で、とくに養豚の密集地域では空気感染を引き起こします。このようなウイルスの空気感染は、専用のフィルターでしか防ぐことができませんが、バイオセキュリティの強化が求められます。さらに、すべてのPRRSウイルスに共通する抗原を同定し、防御効果を発揮するようなワクチンがありません。現在、ワクチン接種による効果を予測する場合、科学的な手法によるよりも経験や過去の事象に基づいて行われる部分が大きいのが実態です。さらに、感染した豚からのウイルス排せつが長期間に及ぶこと、これはベースライン生産に戻すには長い時間がかかってしまうことを意味します。このように、PRRSウイルスは、いまだ大きな課題を抱えており、母豚群および肉豚の両方で引き続き大きな被害をもたらし続けています。そしてもう1つ留意しなければならないことは、 PRRSウイルスは他の疾病と複合感染により予後を悪化させるということです。一般的にPRRSに感染した子豚はウイルスを除去するのに30日もかかるとされています。つまり、その期間は病原体にとって二次感染を起こすのに理想的な状況になります。その克服にはPRRSのウイルス血症の期間を少しでも短縮することが重要で、そこではワクチンの効果にも期待が寄せられているところです。
このように、米国においてもPRRSは依然として難しい病気であり続けており、生産者と獣医師は現在もこれらの課題を克服するために努力し続けているところです。
―― 日本の生産現場でも大変参考になる示唆をいただき、ありがとうございました。