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PRRS2019.06.072018.12 養豚界

解明!PRRSワクチン都市伝説-①

スワイン・エクステンション&コンサルティング 大竹 聡 先生

病態や免疫機序が非常に複雑な上、未知の部分も多いPRRSの対策に当たっては、科学的根拠が伴わない“都市伝説” が多くあります。ここでは特に、ワクチンに関するものを解明します。

はじめに

「豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)」という言葉を知らない養豚関係者は、日本のみならず世界中に1人もいないでしょう。しかし、PRRSに関する科学的根拠に基づいた正しい情報が現場まで十分浸透しているか? と問われると、特に日本ではいまだ不十分であると言わざるを得ません。PRRSが世に認知されて30年ほどがたった今でも、PRRSに対する認識と現場での対策方法との間に大きなギャップを感じる場面が少なくないのは、PRRSという疾病の病態や免疫機序が非常に複雑で分かりにくいだけでなく、未知の部分も多いためでしょう。

だからこそ、日本国内でPRRSワクチンについて議論するたびに、国際標準から大きくかけ離れた、科学的根拠を全く伴わない「我流の理論」がいまだにまかり通り、それぞれが “都市伝説” のようになっているのではないかと思います。

本稿では、筆者が現場でよく聞かれる質問とその回答を列挙しつつ、上記のような都市伝説を科学的根拠に基づいて解明します。PRRS対策におけるPRRSワクチンの位置付けを、業界全員が正しく理解する一助となれば幸いです。

PRRS対策全般にいえることですが、特にPRRSワクチンの使用に関して最も重要なことは「期待度のマネージメント」です。つまり、PRRSの病態を熟知した上でPRRSワクチンの性質を理解し「PRRSワクチンの使用により期待できること」と「期待できないこと」を整理するのです。

あなたがPRRSワクチンに期待していることは何でしょうか? その期待を満たすことができれば、ワクチンに対するあなたの評価は「効く」となるでしょう。逆に、もしあなたがPRRSワクチンがもともと本質的に兼ね備えていないスペックに関して過度な期待を持っているとしたら、ワクチンの結果がどう転んだとしても、ワクチンに対する評価は「効かない」としかならないでしょう。しかし、それは「ないものねだり」と同じことです。

以下に、PRRSワクチン使用によって期待できることと、期待できないことをまとめました。これらを十分に把握して初めて、PRRSワクチンの費用対効果のターゲットを正確に設定することができます。まずは、あなた自身の期待度をマネージメントしなければなりません。

PRRSワクチンに期待できること

  • 臨床症状を有意に低減して生産性を向上させる
  • ウイルス血症を有意に低減する
  • ウイルス排せつを有意に低減する
  • 豚群への一斉接種によって、その群の免疫の“バラツキ(サブポピュレーション)” をなくし斉一化を図る

PRRSワクチンに期待できないこと

  • 野外ウイルスの感染そのものを防ぐ
  • 野外ウイルスの完全な“置き換え” や“押し出し” は、結果として成功することはあるが、必ずしも再現性があるわけではない。従って、PRRSワクチン接種のみで、その農場のPRRS清浄化・撲滅が達成できるわけではない

PRRS生ワクチンは、どの製品でもその遺伝子の一部が変異する可能性があります。しかし、ワクチン株は弱毒化されているので、野外株が遺伝子変異する頻度と比べると格段にまれです。ワクチン株が病原性を復帰した、もしくは強毒株に突然変異して農場で被害を出した、という事例は国内外含めてありません。

このような質問は「PRRSウイルスは変異しやすい……そしてPRRSワクチンは生ワクチンだから、弱毒化されているとはいえ本当に大丈夫なのだろうか……」という過度な心配、思い込み、憶測から生まれた都市伝説といえます。

確かに文献には、実験環境下における豚の同一体内で異なるウイルス株(ワクチン株含む)が何度も継代的に感染・増殖し、別の異なる変異株が生まれる可能性があることは示唆されています。しかし、そのような変異株はすべて、いわば不完全な「奇形株」であり、増殖能力も弱くすぐに死んでしまうため、個体内および豚群内における優勢株には決してなれず、強毒性を発揮することはありません。ウイルスが遺伝子変異するのは、自身の遺伝子を複製(つまり増殖)するときに限られます。その際に自身の遺伝子を “間違えて” コピーしてしまい、その結果 “たまたま” 変異株が生まれるのです。つまり、増殖する頻度が多ければ多いほど、ウイルスは遺伝子変異するチャンスが増えるということになるわけですが、現実的に考えてみると、ワクチン接種群においてはワクチン株も野外株も、その増殖程度・頻度は非ワクチン接種群と比べてかなり低いはずです。

ですので、実際の現場において、ワクチン接種済みのある程度免疫が付与されている豚群で「ワクチン株が強毒株に変異する」可能性は、現実的に皆無といってよいでしょう。

PRRSに関して、子豚へのワクチネーションを適用すべきか否かは、その農場のPRRS感染状況によって異なります。それをPRRSステージ定義Ver.3(図)で説明します。

ステージⅠ(不安定)
適用すべきではない。母子感染が高頻度に起こっており、子豚は出生時からウイルス感染している可能性が高いため。子豚へのワクチネーションの前に、母豚群への一斉ワクチネーションなどで、母豚群の免疫を安定化させるのが先決

ステージⅡ(安定移行)
原則適用すべきではない。ただし、検査により母子感染の確率・頻度がかなり低い(つまり、ステージⅢ に限りなく近い)と判断できれば、適用してもよい

ステージⅢ(繁殖安定)
適用できる。ただし、検査による野外株感染時期の把握が必要。ワクチン接種のタイミングと野外株感染時期は、4週間以上空いていることが望ましい

ステージⅣ(清浄化移行)
原則、適用する必要はない。ただし、マルチサイト農場で繁殖農場がステージⅣだが、別立地の肥育豚農場で野外感染・発症が認められる場合は適用すべきかもしれない

ステージⅤ(清浄化)
原則、適用する必要はない。ただし、マルチサイト農場で繁殖農場がステージⅤだが、別立地の肥育豚農場で野外感染・発症が認められる場合、むしろ適用すべきかもしれない

PRRSウイルスがPCRによって検出された場合、そのウイルス株を同定するためウイルス遺伝子配列を読み取るシークエンス検査を実施します。しかし、この結果として示される「遺伝子配列の相同性(%)」は、実際の防御免疫の指標にはなり得ません。つまり、シ ークエンス検査の結果とワクチンによる交差免疫の程度は一致しないのです。

これを証明する学術文献や現場検証試験の結果は多く発表されています。従って、シークエンス検査の結果は、ワクチンを使うか使わないかを判断する基準にはなりません。ましてや「うちの農場既存の野外株はワクチン製品Aよりも製品Bのワクチン株と相同性が高い。だから、ワクチン製品Bの方がよく効くはずだ」などというロジックは成立しません。

では、シークエンス検査の結果から分かることは何でしょうか? この結果をどのように解釈してPRRS対策に活用すべきなのでしょうか? それは、バイオセキュリティの改善に他なりません。

シークエンス検査から分かることは「それが野外株かワクチン株か」、野外株であれば「どの野外株と遺伝子的に近縁なのか」ということだけです。例えば、ずっと安定していたPRRS陽性農場でPRRSブレイクが起きたとしましょう。ブレイク中に検出されたウイルスをシークエンス検査して、もし農場既存の株と相同性が高い株であれば、それはその既存株が何らかの要因でぶり返したと診断できます。その場合は、豚群の免疫賦与の強化や農場内バイオセキュリティの強化を実施します。

逆に、既存株と相同性の低い株であれば、それは既存株とは全く別の株であると判断できるため、新たに外部から別のPRRSウイルスが侵入したことになります。その場合は農場外バイオセキュリティのどこかに不備がなかったかを見直し、改善を図らなければなりません。

おわりに

本稿では、PRRSワクチンに関わる都市伝説を解明しました。ワクチンに関わるもの以外にも都市伝説は多くありますが、それらについては紙面の都合上、別の機会に譲ります。いずれにしても、何が正しくて何が正しくないのか? 科学的根拠を伴っているのかどうか? その判断をして、最終的に情報を選択するのはわれわれ生産者や獣医師に他なりません。つまり、エンド・ユーザーであるわれわれ自身がまずしっかりと勉強し、偏見や固定観念にとらわれることなく、自分自身で考えて正しい情報を選択・活用することが、 PRRS対策の最初の一歩なのです。

<参考文献>

  • Jeong J et al. Vet Microbiol 214:113. 2018
  • Park C et al. Clin Vac Immunol 21(9):1350. 2014
  • PRRS撲滅推進チームJAPANホームページ:PRRSステージ定義ver.3
  • Lopez O et al. Vet Immunol Immunopathol 102:155. 2004
  • Oppriessnig T et al. J Swine Health Prod 13:246. 2005

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