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抗菌剤 , IPC2021.4.27

薬剤耐性菌を増やさないために抗菌剤の慎重使用を実施しよう

有限会社サミットベテリナリーサービス 石関 紗代子 先生

諸外国での耐性菌に対する取り組み

(1)オランダ、デンマーク
養豚の分野で、抗菌剤の適正使用と使用量削減が進んでいる国を挙げると、オランダ、デンマークがその筆頭に来るでしょう。筆者は2017年に農林水産省委託プロジェクト研究「薬剤耐性問題に対応した家畜疾病防除技術の開発」の一環として、東京大学と(一社)日本養豚開業獣医師協会(JASV)により実施された調査に参加し、オランダとデンマークの政府機関や関係機関、養豚場を訪問し、抗菌剤モニタリングの仕組みと使用量削減の取り組みについて勉強させていただきました。

抗菌剤を適正に使用し、使用量を減らしていこうとした場合、まず出発点になるのは現状把握です。今、どのくらい抗菌剤を使用しているのか?を農場ごとに把握することです。そして、現在の使用量がどの程度なのかを評価するために、他の養豚場と比較(ベンチマーク)することが必要です。
オランダやデンマークではすべての農場の抗菌剤の使用データを集約してモニタリングするシステムがありました。農場ごとに専用の様式で、今月(今年)は自農場でどの系統の抗菌剤をどのくらい使用したかを確認することができます。他の農場と比べて使用量が多いかどうかも一目瞭然でわかるように工夫されています。
このシステムではかかりつけ獣医師を登録しておく必要があります。獣医師には抗菌剤の処方についての責任もありますが、それだけではなく、病気が発生しないような衛生管理を指導する役割もあります。病気が発生してしまった場合には、適切な処方と、再発防止のための飼育環境に関する助言を行います。

抗菌剤を漠然と使用するのではなく、きちんと使用量を意識すること。それだけでも自然に、抗菌剤の使い方に意識が向けられるようになります。以前と比べて増えたか減ったか、他の農場と比べて、使用量が多いのか少ないのかが、農場自身、そして担当獣医師自身が把握できるようになります。これらの情報と、実際の農場での疾病状況や、飼養管理状況を組み合わせて、今までの振り返りや、これからの対策を立てる際に役立てられていました。

(2)日本(JASVベンチマークより)
日本では動物医薬品検査所が中心となって構築された、動物由来薬剤耐性菌モニタリング(JVARM)という国全体の抗菌剤のモニタリングシステムがあります。JVARMでは食用動物における動物用抗菌剤販売量の調査と、食品媒介性病原細菌・指標細菌の薬剤耐性調査、流行株の薬剤耐性調査を行っています。

JVARMの調査結果を見ると日本における動物用抗菌剤の販売量の特徴がわかります。
いくつかを挙げてみますと、まず畜種別では豚で最も販売量が多いこと、系統別ではテトラサイクリン系が最も多いこと。人医療における重要抗菌剤であるフルオロキノロン系、第3世代セファロスポリン系の販売量は日本では少なく推移していること。薬剤耐性率は欧米諸国と同水準であることなどが報告されています。
一方、JASVが会員獣医師のクライアント農場を対象に行った調査からも、同様の結果が得られています。系統別ではテトラサイクリン系が最も多いこと、投与経路では経口投与が多いことなどです。また、一部の農場で特に使用量の多いケースがあり、これらの農場が全体の平均を押し上げている可能性があることから、農場ごとに問題となっている疾病対策を進め、衛生管理の改善等に力を入れることが、全体の抗菌剤使用量低減に効果があるだろうと考察されています。

養豚分野の新しいシステムとして、JASVと農研機構が共同開発しているPigINFOBio(ピッグインフォバイオ)という抗菌剤使用に関するベンチマーキングがあり、今後の活用が期待されます。これは農場個々の指示書データをもとに抗菌剤系統別にベンチマーキングを行うもので、他農場と比較し自農場の使用量を客観的に知ることができるものです。生産成績を取りまとめたPigINFO(ピッグインフォ)と組み合わせることで、様々な角度からのデータ分析の可能性が期待されています。

抗菌剤は、理由が無ければ使われないものですし、使わなくて良いものです。抗菌剤を使用する理由は、感染症です。抗菌剤を適正に使用していくために、まずは感染症が起こりにくいような飼養環境を整えることが最も重要です。豚に合わせた温度管理や換気管理、道具や畜舎の洗浄・消毒、作業する人のシャワーや手指の消毒、衣服長靴の交換などの衛生管理。そして新たな病気を農場内に入れないためのバイオセキュリティ(農場防疫)ルールを構築し、それを農場だけでなく関係する人たちも巻き込んで実践していきましょう。
その上で病気が発生してしまった場合には、抗菌剤を使用するか?どの抗菌剤を選ぶか?投与経路、投与量はどうするか?ということを考えて、正しく使っていきましょう。そうすることで、薬剤耐性菌の発生リスクを低減し、豚をより健康に育てるということを両立することができるでしょう。

薬剤耐性菌を増やさないために抗菌剤の慎重使用を実践しよう

参考資料

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