抗菌剤による抗菌作用と体の免疫作用
豚や牛などの動物が病原体に感染すると、体の免疫が働いて病原体を体内から排除しようとします(感染免疫応答)。感染免疫応答は、自然免疫応答と獲得免疫応答に分けられます。自然免疫応答では、免疫細胞が細菌を食べたり(貪食作用)、抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ)が抗原を認識して活性化し、情報伝達物質(サイトカイン)を産生することで、免疫細胞による捕食や殺菌を促して適切な炎症反応を引き起こし、病原体の増殖を防止します。獲得免疫応答では、抗原提示細胞により抗原情報とサイトカインを伝達されたヘルパーT細胞により、B細胞やキラーT細胞が活性化して、抗原やその感染細胞を攻撃します。
抗菌剤は細菌感染によって引き起こされる感染症の治療を助ける薬です。前の項目でお話ししたように、抗菌剤は細菌の増殖を抑制したり、殺菌するなど、様々な特徴を持っています。これらの特徴を考慮し、原因となる病原細菌に効果のある抗菌剤を選んで、効果を得るために十分な量を投与します。
特に感染個体の免疫機能が低下している場合には細菌感染が重篤化しやすくなりますので、適切なタイミングでの抗菌剤の使用が重要になります。

使用禁止期間の順守
家畜に対して抗菌剤を使用する場合には特別なルールがあります。動物用医薬品に対して決められている使用禁止期間(休薬期間)です。平成18年に施行されたポジティブリスト制度によって設定された残留基準値(MRL)に基づいて設定されているもので、動物用医薬品を投与した後、屠畜するまでの間に空けなければいけない期間のことです。これは家畜の体内あるいは生産物に、薬剤の成分が残留して問題になることが無いようにと決められたものです。畜産に関わる関係者は、正しい知識を持ち、農畜産物の安全に責任を持たなければいけません。

薬剤耐性菌の発生メカニズムと耐性菌を生まないようにする取り組み
①薬剤耐性菌とは?
薬剤耐性菌とは、薬剤(抗菌剤)の存在下でも発育できる細菌のことです。ある抗菌剤に耐性がある、ということは、細菌がその抗菌剤に対して感受性がない、つまりその抗菌剤が効かないことを意味します。細菌に感染した場合、感染した細菌の一部がすでに耐性を持っていることもあります。
細菌は独⾃の耐性機構を作り出したり(染⾊体の突然変異等)、抗⽣物質産⽣菌や他の薬剤耐性菌が持つ耐性遺伝⼦を取り込んだり(耐性の伝達)して耐性を獲得します。また、細菌が増殖する過程で、染⾊体上の遺伝⼦が変異する突然変異によるものもあります。
耐性遺伝⼦の獲得は、常にほぼ⼀定の確率で起こっている現象ですが、Aという薬剤に耐性を持つ菌は、環境中にAが存在するとき、その他の感受性菌と⽐べて有利に増殖します。こういった場合に、耐性菌が中心となって体内で増殖する可能性があります。また抗菌剤の不適切な投与(少なすぎる投与量、同じ抗菌剤の長期投与など)により、細菌が徐々に耐性を持つ場合もあります。
この様に、抗菌性物質により感受性菌が増殖できない⼀⽅で、薬剤耐性菌が⽣き残って増えることを「薬剤耐性菌が選択される」といいます。
薬剤耐性菌の場合、菌の増殖を阻害したり、殺菌できる抗菌剤の種類が少なくなり、感染症の治療が困難になります。

なお、薬剤耐性菌かどうかは、薬剤感受性試験で判定された細菌の最⼩発育阻⽌濃度(MIC)により判断されます。MICがブレイクポイント(耐性限界値:BP)を超えた細菌が薬剤耐性菌とされますが、抗菌剤の体内動態などの影響により、抗菌剤ごと、感染症ごとにブレイクポイントは変わります。
特定の細菌に対するMIC値の範囲が広い抗菌剤は、耐性菌を生じている可能性が考えられます。
MIC50およびMIC90は、それぞれ50%および90%の菌株の発育を阻止したMIC を示しますが、MIC90が低い場合には、大部分の株が感受性(一部耐性菌が出現している場合もある)、MIC50が高い場合には、大部分が耐性化していると判断できます。一方、MIC90とMIC50の幅が広い場合には、耐性株が増加、あるいは、耐性化傾向にあると考えられます。
②適応症(有効菌種)や、用法用量の遵守
抗菌剤の適正使⽤とは、⽤法・⽤量や使⽤基準などの法令を遵守し、使⽤上の注意に従って使⽤することです。
まず、抗菌剤は感染症と診断されている場合、または感染症が疑われる場合に使用します。感染症が疑われる場合であっても、飼育環境、豚の状態をよく観察して判断します。例えば哺乳子豚が、環境温度が寒かったことが原因で下痢をしていたということがありました。この場合には、まずは子豚の日齢にあった暖かい環境温度を確保することが優先されるべきです。そして脱水の改善のために電解質水の経口補液を行います。実はこれだけで下痢が治ってしまうことも多くあります。状況を適切に判断して対応する必要があります。
抗菌剤を使って対応する場合には、有効菌種を考慮し、想定される感染症に対して効果的な薬剤を選択します。薬剤感受性試験の結果も考慮して選択していきましょう。
抗菌剤の適切ではない使い方の例は、抗菌剤が必要ない状況で使い続けること、使用量や使用期間、投与方法が用法用量や標準的な使用方法から逸脱していること、薬剤の選択が不適切であることなどです。
投薬の頻度を減らすために、野生動物と違って飼養管理を人間が行う飼育動物の場合には、やはり予防が重要です。つまり動物を病気にしないような衛生管理です。ワクチンで予防できる病気は予防する、外部からの新たな病原体の侵入を防ぎ農場内での病気の広がりを防ぐためのバイオセキュリティを構築し実践する、病気にならないように温度管理や湿度管理に常に気を配る、必要な施設修繕を行う、健康に飼養できるような適切な栄養管理を行う、もし体調を崩した場合にもすぐに気付けるように普段から注意深く観察してあげる、ということが挙げられます。例えば、早期に対応できれば環境管理の改善だけで快方に向かうようなケースでも、重症化するまで気付けなかった場合は治療開始のタイミングも遅れてしまい、結果的により長期間の投薬が必要になってしまうかもしれません。





