はじめに
「2013年の薬剤耐性に起因する死亡者数は低く見積もって70万人であり、何も対応を取らない場合は、2050年にはガンの死亡者を超えて1,000万人に達する」という衝撃的な報告が発表されました。薬剤耐性菌、つまり、抗菌剤の効かない病原菌による感染症で死亡する人が、今後、激増するだろうという予測です。その後、2015年には世界保健機関(WHO)によってグローバルアクションプラン(行動計画)が採択され、世界各国で、薬剤耐性菌への対策が取りまとめられています。
抗菌剤 , IPC2020.3.16
有限会社サミットベテリナリーサービス 石関 紗代子 先生

「2013年の薬剤耐性に起因する死亡者数は低く見積もって70万人であり、何も対応を取らない場合は、2050年にはガンの死亡者を超えて1,000万人に達する」という衝撃的な報告が発表されました。薬剤耐性菌、つまり、抗菌剤の効かない病原菌による感染症で死亡する人が、今後、激増するだろうという予測です。その後、2015年には世界保健機関(WHO)によってグローバルアクションプラン(行動計画)が採択され、世界各国で、薬剤耐性菌への対策が取りまとめられています。

今、日本でも、抗菌剤の慎重使用が国として取り組むべき大きなテーマになっています。特に動物用抗菌剤のうち、畜種別使用量の最も多い畜種が豚となっており、養豚に関わる私たちが正しく理解し、丁寧に向き合っていなかければいけない課題です。
養豚場において抗菌剤は、豚を感染症から守るために使われます。抗菌剤は正しく使えば有効なツールですが、正しく使わないと抗菌剤の効かない病原体(薬剤耐性菌)を作り出してしまう可能性があります。また、投薬後に屠畜することができない期間(休薬期間)を遵守しなければ、豚肉に薬剤が残留しまうリスクもあります。
抗菌剤と薬剤耐性菌について正しい知識を身に付け、慎重使用を実践していきましょう。
抗菌剤を投与する目的は、感染症の治療です。はじめに感染症対策の、予防と治療について整理していきたいと思います。
病気の予防
①環境管理
疾病予防のためには、病気にならない環境作り、飼育管理を行うことが大切です。
病気の発症は、豚の抵抗力に対して病原体の感染圧力「病原性の強さ×病原体の量」が勝った時に起こります。感染した病原体の病原性が高ければ、少量の感染でも感染圧力は強くなってしまいますが、病原性が比較的弱ければ、病原体の量を減らすことで感染圧力を下げることができます。例えば、豚舎・豚房の洗浄、消毒、乾燥を徹底して行うことで、環境設備の感染圧力を下げることができ、次に豚房に入れる豚の発症を予防することに繋がります。また、豚の発育ステージに合わせた温度管理、換気管理を行い豚にとってのストレスを減らすことや、適切な栄養管理を行うことも、大切な疾病予防になります。

②ワクチン
“豚の抵抗力”を高める方法として、適切な飼養管理のほかにワクチンの活用も重要です。ワクチンで予防できる疾病は、ワクチンをうまく活用して対策しましょう。農場内ごとの疾病状況や繁殖豚群の免疫状態を考慮して、農場に合ったワクチネーションプログラムを構築する必要があります。また、農場の状況は一定ではありませんので、定期的にモニタリング検査を実施してプログラムを見直していく必要もあります。
③バイオセキュリティ(農場防疫)
農場外からの新たな感染症の侵入を防ぎ、農場内での感染拡大を防ぐ手法が、バイオセキュリティ(農場防疾)です。病原体は、外から入ってくる様々なものと一緒に農場内、豚舎内に入ってきます。例えば、外部から豚を導入する場合には、豚が病原体を持ち込むことがないように導入元の疾病状態を確認し、到着後に検疫期間を設けます。また、と畜場に行った出荷トラックを十分に洗浄、消毒をしてから農場に入れること、農場周囲にフェンスを張って野生動物が農場敷地内に入ることが無いようにすること、カラスなどの野鳥が豚舎内に侵入しないように防鳥ネットを張ること、などの対策があります。バイオセキュリティ上の重要な管理ポイントは、飼養衛生管理基準としてまとめられているほか、バイオセキュリティの査定専用ツール(P-JET(PRRS撲滅推進チームJAPAN)のBioAsseTなど)もあります。これらを利用して定期的にチェックすることで、多方面からの客観的な確認ができるでしょう。

病気の治療
病気の豚は早期に発見して、早期に適切な治療を行うことで治癒率が高まります。体調不良の豚を早いタイミングで見つけられるように、観察眼を磨きましょう。早期発見、早期治療ができれば、群全体としての感染症被害を小さく抑えられるだけでなく、薬剤費の削減に結び付きます。感染症はいくつかの病原体が複合感染することにより、症状が重篤化し、治療効果も現れにくくなりますので、症状が悪化してからでは、いくら治療してもなかなか治らないという悪循環に陥ってしまいます。
病気の早期発見・早期治療のポイント
豚が病気になったら、環境もあらためて見直します。豚房が寒い、風が吹き込んでいるなど飼育環境にそもそもの原因があって病気になってしまうことが非常に多いためです。抗菌剤の役割は、感染部位での病原細菌の増殖を抑えることであり、病気を発症した豚が回復するためには、豚自身の持つ生体防御力が必要不可欠です。豚にとって適切な環境を整えることで、豚の回復を助けることにつながります。その結果、治療のために使わなければいけない薬剤の使用量を最小限にすることができます。 どの薬剤を使うかということばかりに気を取られず、病気の引き金となった“本来の発症原因(環境の不備など)”を取り除くことを必ず行いましょう。
注意点:ウイルスには効かない
抗菌剤は万能ではありません。例えば、抗菌剤にはウイルスに対しての直接的な効果はありません。抗菌剤はあくまでも「細菌」に対して有効なものです。ウイルス病に感染している豚に抗菌剤を投与する場合、それは細菌による二次感染予防としての効果を期待するものであり、ウイルス自体を殺す効果はありません。
投与量、投与期間 多すぎても少なすぎてもダメ
抗菌剤の投与では「治療開始時から十分量を十分な期間投与すること」を守りましょう。投与量は基本的には豚の体重によって決まりますので、必要量をきちんと投与します。投与量が少なすぎると治療効果が得られないばかりでなく、薬剤耐性菌の発生リスクが増大します。投与量が多すぎると過剰投与による危険がありますし、薬品は高価なものですから、過剰な使用はお金の無駄です。 抗菌剤は、1回投与で効果があるもの、3日連続投与すべきもの、一定期間連続投与すべきものなど、その種類によって投与回数(期間)が異なります。
抗菌剤は必要量を、必要な場所に届けられてこそ効果があります。特に畜産の場合には、投薬に使う道具や設備、それらを使う技術的問題などにより、投薬したはずの量がきちんと豚に届いていない、ということも実際に起こり得ます。筋肉内投与の薬剤がきちんと筋肉内に注射できているか?経口投与の飼料添加の場合には、ムラなく混和されているか?飲水添加の場合には、すべての豚が飲めるような投与時間と濃度に設定され添加されているか?結晶化による“設備の目詰まり”が起こっていないか?などに注意が必要です。抗菌剤を投与したのに期待した効果が得られない、という場合には、実際の投与状況についても改めて見直す必要があります。合わせて各薬剤の用法及び用量に記載されている内容を理解しておきましょう。

ここからは要指示医薬品を含む動物用医薬品に関する情報を提供しています。
獣医療関係者を対象に、日本国内で動物用医薬品を適正に使用いただくため、日本の承認に基づき作成されています。
獣医療行為に携わっている方を対象にしており、一般の方、日本国外の方に対する情報提供を目的としたものではないことをご了承ください。
※要指示薬は獣医師等の処方箋・指示により使用してください。
獣医師・獣医療関係者 一般の方