(4)抗菌スペクトル
抗菌剤には様々な種類があります。どのような感染症で、原因菌は何か?によって最適な抗菌剤を判断します。使用する薬剤や治療対象、目的に応じて、投与回数(投与期間)と投与量が決まります。
抗菌剤が作用を発揮する細菌の種類を示したものを抗菌スペクトルと言います。グラム陽性菌、グラム陰性菌などの、多くの細菌に抗菌効果のあるものは抗菌スペクトルが広い、と言い、特定の細菌に限定した効果のものは抗菌スペクトルが狭いと表現します。ただし、抗菌スペクトルの広さと抗菌効果の強さは別の問題であり、抗菌効果の強さが治療効果の高さを直接示したものではありませんので、これらとは分けて考える必要があります。
主な動物用抗菌剤の抗菌スペクトルを表1に示しました。原因菌が明らかな場合には、その原因菌にのみ強い抗菌効果を示す、つまり抗菌スペクトルの狭い薬剤を選択することが、薬剤耐性化を防ぐという意味でも重要です。


①βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)
細菌の持つ細菌細胞膜に局在する細胞壁(ペプチドグリカン)合成酵素であるペニシリン結合タンパク質(PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し、その酵素活性を阻害します。結果的に、細胞壁の生合成および隔壁形成が阻害されます。細胞壁を持たないマイコプラズマには無効です。
βラクタム系は時間依存性の抗菌剤であり、PAE※が短いという特徴があります。そのため、細菌の増殖部位でMIC以上の濃度を一定期間以上維持しないと効果が得られません。
※PAE(post antibiotic effect):抗菌性物質の暴露を MIC 以上の濃度で受けた細菌群が、その暴露が無くなってからも増殖を抑制され、あるいは死滅を続ける現象。
※MIC(最小発育阻止濃度)の説明はこちら

②アミノグリコシド系
主に細菌のリボソーム30Sサブユニットに結合してタンパク質合成の開始を阻害します。濃度依存性の抗菌作用を示しますので、1日の必要量を複数回に分けて投与するよりも、まとめて1回で投与しピーク濃度を上げることで有効性が高まります。副作用として、小動物や人で腎障害などが報告されているため、大量に連続投与を行う場合には十分な注意が必要です。
経口投与した場合には、腸管からほとんど吸収されず、糞便とともに排泄されるため、腸管感染症の治療に有効です。注射薬の場合には、注射部位に長く残留するため、休薬期間が長く設定されていますので注意しましょう。
③マクロライド系
細菌のリボソームに結合し、タンパク質合成を阻害することで抗菌作用を発揮します。βラクタム系が細胞壁合成阻害を示す一方で、細胞壁をもたない細菌に対しても効果を示すという特徴を持っています。その代表的な菌が、マイコプラズマです。また、細胞内への移行性が良いという特徴もあり、マクロファージなどの食細胞内への移行性にも優れているほか、ローソニア菌などの細胞内寄生菌にも有効です。
抗菌活性は時間依存性を示しますが、βラクタム系と異なりPAEが長い特徴がありますので、AUC/MIC の比がある値以上になるように投与量を決めます。ただし同じマクロライド系でもその薬剤によって半減期が異なりますので、薬剤ごとの用法用量を守りましょう。
また、マクロライド系抗菌剤は抗菌活性以外にも、抗炎症作用などの多様な作用を持つことも特徴です。
AUC/MIC(MIC値に対する血中濃度曲線下面積(AUC)の比率)の説明はこちら

④リンコマイシン系
リンコマイシンは抗菌作用や抗菌スペクトルはマクロライド系に似ていますが、化学構造はまったく異なり、リンコマイシン系として分けられます。作用機序は細菌のリボソームに結合することによる、タンパク質の合成阻害であり、グラム陽性菌、グラム陰性球菌に対して有効で、嫌気性菌に対しても優れた抗菌活性を示します。マクロライド系抗菌剤と同様に、細胞内寄生菌(ローソニア菌など)にも有効であること、マクロファージへの移行性に優れていること、抗炎症作用など抗菌活性以外の作用があることなどの特徴も持っています。
時間依存性でPAE が長いという特徴もマクロライド系と同様ですので、AUC/MIC の比がある値以上になるように投与量を決定します。
一方、マクロライド系に耐性化したブドウ球菌がリンコマイシンに対しても交叉耐性を示したという報告もありますので、注意が必要です。
⑤テトラサイクリン系
細菌のタンパク合成系において、リボソームに可逆的に結合してタンバク合成を阻害することにより抗菌作用を発揮します。しかしリボソーム保護タンパク質の発現によって容易に耐性になってしまうと言われています。
抗菌スペクトルは非常に広く、マイコプラズマにも有効です。
時間依存性でPAE が長いという特徴があるため、AUC/MIC の比がある値以上になるように投与量を決めます。
注意点として、カルシウムやマグネシウム、アルミニウムまたは鉄剤と消化管内でキレートを形成して薬剤の吸収が阻害されてしまい、効果が減少するという欠点があります(ただし、ドキシサイクリンはキレート結合を起こしません)。また、人では骨や歯の色素沈着と発育不全を引き起こすため、妊娠中や若齢子への投与は避けるべきと言われています(筆者も肥育豚の骨への色素沈着を経験したことがあります)。人体薬としてはあまり使われなくなってきているようです。
⑥サルファ剤・葉酸拮抗剤
サルファ剤は古くから用いられてきた抗菌剤です。豚用には注射剤と経口投与剤として承認されているものがありますが、抗菌力に限界があり、耐性の発現もあることから、葉酸拮抗薬と併用したST合剤として使用されることが多くなっています。
ST合剤は、微生物の葉酸合成過程における異なる段階を阻害することで、相乗的な抗菌作用を示します。葉酸は細胞が増殖するために無くてはならないビタミンですが、微生物の多くは葉酸を自身で合成しています。ST合剤の抗菌スペクトルは広く、グラム陽性菌、グラム陰性菌のほか、原虫(トキソプラズマ、コクシジウム)にも有効です。
⑦フルオロキノロン系
グラム陰性菌に対してはDNAジャイレース、グラム陽性菌に対してはDNAトポイソメラーゼⅣの働きを阻害することによって抗菌効果を示します。
濃度依存性で、グラム陰性菌に対しても比較的長いPAEを示します。耐性化を抑制するためには、耐性菌出現阻止濃度(MPC)を超えるように最高血中濃度(Cmax)を高くして、耐性菌選択濃度域(MSW)を短時間で通過するような、PK/PD理論に基づいた投与を行うことが必要です(図2)。つまり、治療効果を得て耐性化を抑制するためには、1回投与量を増大して必要に応じて投与間隔を設定していく必要があります。
注意点としてはテトラサイクリン系と同様、カルシウムやマグネシウム、アルミニウムなどの金属イオンとキレートを形成し薬剤の吸収が阻害されてしまい、効果が減少するという点が挙げられます。
PK/PD理論の詳しい説明はこちら


⑧ポリペプチド系(コリスチン)
コリスチンは1950年に福島県内の土壌中細菌から分離された抗菌剤です。コリスチンは脂質二重膜からなる外膜及び内膜を有するグラム陰性菌に対し、膜のカルシウムとマグネシウムの架橋構造を崩壊させます。また、コリスチンの側鎖脂肪酸がグラム陰性菌の外膜のリポ多糖体と相互作用してコリスチンが外膜に入り込み、細胞膜の透過性を上昇させ、細胞の内容物を漏洩させ溶菌させるという効果もあります。そのため、細胞膜構造が異なるグラム陽性菌はコリスチンに対して自然耐性を示します。なお、グラム陰性菌の中でプロテウス属菌やバークホルデリア属菌はこのLPS構造のリン脂質が修飾されていることから、コリスチンに自然耐性を示します。
コリスチンはグラム陰性菌のLPSとの親和性が高く、LPSに結合しエンドドキシンの作用を減弱させます。
コリスチンのPK/PD関連パラメーターは明らかではないとされていますが、濃度依存的に殺菌性が高まる傾向があります。またコリスチンは耐性菌出現阻止濃度が高いことがわかっており、常用量投与により耐性菌が選択される可能性が高いと言われています。
コリスチンは一般に腸管から吸収されにくいという特徴があるため、大腸菌、サルモネラなどのグラム陰性菌による消化器感染症に対しては経口投与が有効です。
近年、人の多剤耐性グラム陰性菌による感染症に、コリスチンが強い抗菌力を示すという報告がなされ、あらためて注目されている抗菌剤です。
⑨チアンフェニコール系(チアンフェニコール、フロルフェニコール)
(1)チアンフェニコール
注意点としては、一過性の下痢を起こすことがまれにあります。また、長期間の投与により造血機能障害を起こすことがあると言われています。
(2) フロルフェニコール(FF)
フロルフェニコールも広い抗菌スペクトルを持つ抗菌剤です。細菌のタンパク質合成を阻害することにより抗菌作用を発揮します。注意点として、一過性の下痢と食欲不振が起こることがあります。妊娠動物には投与しない方が良く、また、注射部位に軽度の腫脹が起こります。投与後、血中、各臓器に高濃度に分布しますが、残留期間は長くなく、多くが尿中に排泄されます。
⑩その他
チアムリン
抗菌作用等がマクロライド系抗生物質に類似した、フマル酸チアムリンを主剤とする半合成抗生物質です。抗菌作用はリボソームと結合して蛋白合成を阻害し、静菌的に作用します(静菌作用)。豚赤痢の原因菌であるBrachyspira hyodysenteriae に対して強い抗菌活性を示すほか、マイコプラズマやヘモフィルス感染症にも効果的とされています。
刺激性があり、排泄物との接触で皮膚炎を起こすことがありますので、マスクの装着や使用後は手洗いをするようにしてください。





