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PRDC , マイコプラズマ , PRRS , PCV22018.10 養豚の友

正しいワクチンプログラムで事故率軽減へ

ゾエティス・ジャパン㈱ テクニカルサービス部 眞子丈資、堀井忠夫、米山修、佐々木家治、岩隈昭裕

はじめに

豚呼吸器複合病(以下、PRDC)は、複数の病原体の感染により、豚が呼吸器病を示した状態のことです。
単一の病原体感染なら無症状または軽症で済むものが、複数の病原体に感染することによって症状が強くなり、経済的損失が大きくなります。米国においても、単独感染より複合感染のほうが経済的損失が大きくなることが報告されています。

今回は、肉豚のPRDCワクチンプログラムを構築する観点から、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(以下、Mhp)、PRRSおよびPCV2ワクチンの効果をどのように引き出すかについてご紹介します。

マイコプラズマ・ハイオニューモニエ

Mhpは、豚マイコプラズマ性肺炎の原因病原体です。Mhp単独による斃死率は低いものの、1日増体量や飼料要求率に影響し、農場に経済的被害を与えます。また、ほかのPRDC病原体が感染しやすくなり、PRDCを引き起こすことが知られていることから、「最重要基礎呼吸器疾患」とも言えます。

1、Mhpの感染様式
豚マイコプラズマ性肺炎は、2~6カ月齢の肥育豚での発症が多いと言われていますが、その感染は、①母豚から子豚への感染(直接接触による)、②離乳ステージ以降における保菌豚からの感染拡大により、豚群全体へ広がることが明らかとなっています。
さらに、離乳時におけるMhp保有率が高いほど、出荷時の肺病変保有率が高まるという報告もあります。

2、ワクチンによるMhpコントロール
Mhpは、感染後から8カ月間ほど排菌し続けるという報告もあり、母豚から子豚への感染を完全に遮断することは極めて困難です。このため、「感染しても、如何に発症を抑えるか」という考え方に基づき、子豚へのMhpワクチン投与を行うことが重要です。

それでは、Mhpワクチンは、いつ投与すれば良いのか?3つの観点から早期投与を推奨します。

(1)ワクチンは、感染前に投与すべきもの
前述の通り、一部の離乳豚はすでにMhpを保菌しているため、離乳時投与では「Mhpの感染前」に間に合いません。ワクチン投与の原理原則に改めて立ち返る必要があります。Mhp感染時期を踏まえ、Mhpワクチンの早期投与を推奨します。

(2)Mhpは他のPRDC病原体との混合感染により経済的損失が増加する
Mhp単独またはPRRSそれぞれの単独感染よりも、Mhp―PRRS混合のほうが、経済的損失が増加することが報告されていますが、PRRS感染前にMhpワクチンを投与することにより、PRRS肺炎を軽減できることも報告されています。Mhpと豚胸膜肺炎(以下、APP)の混合感染についても同様の報告があることから、PRDCコントロールに苦慮している農場においては、まずはMhpワクチン早期投与を行い、PRDC関連疾病の発症状況をモニタリングすることを推奨します。

(3)早期投与のほうが、免疫がより活性化される
市販のMhpワクチンを1週齢または3週齢で投与した場合、1週齢投与のほうがIFN-γ(インターフェロン・ガンマ、細胞性免疫の活性化指標)濃度が有意に増加したとの報告があります。免疫をより活性化させるためにも、Mhpワクチンの早期投与を推奨します(図1)。

PRRS

PRRSは、母豚では流死産などの繁殖障害、育成・肥育豚では肺炎などの呼吸障害を引き起こすウイルス性の疾病です。世界の養豚業に最も大きな経済被害を与えている疾病のひとつで、国内におけるPRRSの被害額は年間約280億円と試算されています。PRRSウイルスは、変異機構、病態、免疫など未だに不明な点が多く、PRRS制御を困難とさせています。

1、PRRSの感染様式
PRRSウイルスの主な伝播経路は、感染豚の移動と空気伝播です。これにより農場内へ侵入します。また、感染豚の唾液、喉頭粘膜、尿、精液、ふん便などからウイルスが排泄され、農場内で感染が拡大します。このほかにも、感染血液による注射針の汚染など、人為的な感染拡大も認められています。ウイルス血症の母豚から胎子への垂直感染もあるので、注意が必要です。

2、ワクチンによるPRRSコントロール
PRRSワクチンの使い方は、母豚投与と肉豚投与がありますが、それぞれの目的を理解し、農場の状況に合った使い方をしなければ、十分に効果を発揮させることはできません。母豚投与の目的は、「母豚からのPRRSウイルス排泄を抑え、PRRSウイルスに感染していない子豚を離乳舎へ送り出す」ことです。母豚投与により、流産を抑え、ウイルス血症の子豚を作らないことが第一のゴールと言えます。

一方、これだけでは肉豚のPRRS被害を軽減できないことも理解しておく必要があります。PRRS移行抗体の半減期は12日程度という報告があり、離乳時にはほとんど残っていないことが推測できます。いくらPRRSウイルスに感染していない子豚を離乳舎へ送り出したところで、ワクチンを投与しなければ、離乳ステージの前半でPRRSに対する免疫を失います。PRRSの好発時期にもよりますが、肉豚のPRRS被害を軽減するためには、肉豚へのPRRSワクチン投与は欠かせません。

それでは、肉豚へのPRRSワクチンはどのように用いればよいのか?そのポイントをご紹介します。

(1)好発時期までに投与しておく
ワクチンは感染前に投与するのが原則ですが、ワクチンは投与後すぐに効果を発揮するわけではありません。ワクチンが効果を発揮するには、投与後3~4週間程度かかります。このため、抗体検査やPCR検査を活用し、PRRS好発時期を推定した上で、適切な投与時期を検討することを推奨します(図2)。

(2)Mhpコントロールを優先する
Mhpの項でも述べましたが、PRRS感染前にMhpワクチンを投与することにより、PRRS肺炎を軽減することが報告されています。さらに、Mhpワクチンを投与せず、PRRSワクチンを投与した場合、PRRSワクチンの効果が十分に発揮できないことも報告されています。PRRSワクチンの効果を十分に発揮させるためにも、Mhpワクチン早期投与などのMhpコントロールを優先することを推奨します。

(3)評価項目を設定する
PRRSは、さまざまなPRDC病原体との混合感染により、多岐に亘る被害をもたらします。例えば、APP発症の引き金がPRRSだったという事例は多数報告されており、このような事例においては、PRRSの症状が認められないこともあります。

PRRSワクチンを使用する際は、「PRRSをコントロールすることにより、何が改善されるのか」をよく検討する必要があります。見た目だけではPRRSワクチンの効果に気付かないこと、または予期していなかった効果が得られることもあるため、各種評価項目を継続的にモニタリングしながら、PRRSワクチンの効果を検証することを推奨します。

PCV2

PCV2は、豚サーコウイルス2型(Porcine Circovirus 2)のことです。発育不良や呼吸困難、斃死率上昇などを主徴とするウイルス性の疾病で、世界の養豚産業に深刻な打撃を与えています。現在では市販ワクチンにより、その被害が軽減できた事例も多いですが、未だなおPCV2コントロールに苦慮する農場があるのも事実です。

1、PCV2の感染様式
PCV2は鼻腔、尿、唾液、扁桃など、さまざまな場所から検出されます。このため主な感染経路は、経鼻、経口感染と考えられています。感染時期は通常7~12週齢くらいで、個々の農場における感染時期は、抗体検査(ELISA)で明らかにすることができます。

2、ワクチンによるPCV2コントロール
現場では、PCV2ワクチンの離乳時投与がよく見られますが、これは正しい投与方法なのでしょうか?多くの子豚はPCV2移行抗体を保有していますが、移行抗体とワクチン投与時期に関する報告があります。すなわち、母豚にPCV2ワクチンを投与して高い移行抗体を子豚に付与し、子豚へのワクチン投与時期を前後させてその影響を調べたものです。

この試験では、21日齢(移行抗体価が高い)と49日齢(移行抗体レベルが低下)でワクチンを投与し、84日齢でPCV2を人工感染させたところ、血液中のウイルス遺伝子量は、49日齢投与のほうが有意に低く抑えられた結果になりました。このことから、ワクチンの効果を最大限に発揮させるためには、移行抗体の影響を避けることが重要だと考えられます。
これを踏まえ、PCV2 ワクチンのポイントについてご紹介します。

(1) 移行抗体レベルを把握する
子豚の移行抗体価を把握する方法は、子豚の血液検査だけでなく母豚の血液検査でも可能です。移行抗体レベルを確認の上、PCV2ワクチンの最適な投与時期を検討しましょう。

(2) 移行抗体のばらつきの有無を確認する
移行抗体レベルを把握できても、移行抗体のばらつきが見られる場合は注意が必要です。移行抗体がばらついている状況でワクチンを投与すると、移行抗体の影響を受ける子豚と受けない子豚が混在することになり、群としての免疫が不十分となります。この場合、対策として母豚の免疫均一化が求められます。

(3) 子豚の免疫が確立する時期を理解する
ワクチン投与時に同程度の移行抗体価レベルだったものでも、投与週齢が遅い個体のほうが抗体価の上昇率が高い傾向だったという報告があります。子豚の液性免疫の反応性は日齢とともに上昇し、約5週齢で確立するとされています。離乳時投与は、液性免疫が十分に確立できていない時期での投与ということを十分に理解しておく必要があります。

おわりに

これまでMhp、PRRSおよびPCV2ワクチンのポイントについて述べてきました。それぞれのポイントやワクチンの投与タイミングがお分かりいただけたかと思います。

ワクチンは「投与すること」が目的ではありません。「疾病をコントロールする」ことが目的です。今一度、それぞれのワクチンが十分に効果を発揮できているかを見つめ直し、農場に合った正しいワクチンプログラムを構築していただきたいと思います。

図3は、弊社製品のご紹介になりますが、薬の効果を最大限に引き出すため、それぞれの製品の使用時期・使用方法について、科学的知見に基づいた提案をさせていただいておりますので、参考にしていただければ幸いです。もちろん、薬の効果を最大限に引き出すためには、日々の飼養管理が最も重要であることをお忘れなく。

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