豚の先祖であるイノシシの授乳期間は6~8週間です。現在の養豚において授乳期間は3~4週間が一般的で、短いものでは18日前後も少なくありません。このように、イノシシの約半分以下の短い授乳期間で離乳された子豚は母子分離症、即ち離乳ストレスによる不安、摂食障害そして消化機能障害など多難な状況下に曝され、トラブルを誘引しやすくなります。この状況をいかに緩和させるかが離乳後の発育に大きく関わってきます。
子豚、離乳、飼養管理2020.4 ピッグジャーナル
㈱ピグレッツ 渡辺一夫先生
豚の先祖であるイノシシの授乳期間は6~8週間です。現在の養豚において授乳期間は3~4週間が一般的で、短いものでは18日前後も少なくありません。このように、イノシシの約半分以下の短い授乳期間で離乳された子豚は母子分離症、即ち離乳ストレスによる不安、摂食障害そして消化機能障害など多難な状況下に曝され、トラブルを誘引しやすくなります。この状況をいかに緩和させるかが離乳後の発育に大きく関わってきます。
離乳後の発育を順調にさせる基礎的なポイントを簡潔に示しました。
・離乳体重を5kg以上にする
離乳体重は5kg以上です。5kg未満の子豚は前者と同一環境では発育不良や事故率が高くハイリスクです。このような子豚は廃用予定の母豚に再哺乳させるか、または保温・保湿環境下で高栄養の代用乳を給与するなど特別な管理が必要です。
・ウエストのくびれている豚は要注意
子豚を上から見てコーラ瓶のようにウエストのくびれている豚は母子分離症に伴う摂食障害に陥りやすい豚です。このような子豚は、体重が小さいグループに入れて管理します。いわゆるイジメ防止です。そして、人工乳をソフトクリームが溶けたくらいの濃さにぬるま湯で溶いて給与します。
・飼料と水
離乳時は栄養価が高く嗜好性の良い人工乳が給与されています。しかし、新鮮な水が簡単に飲めないと飼料摂取量は伸びません。また、給餌器に飼料を入れ過ぎるのも、嗜好性が低下するので良くありません。はじめは制限給餌をお勧めします。
・温度管理に注意
環境温度が低いと自己防衛で子豚たちが集まって暖をとります。つまり、温まるのが第一で飼料を食べるのは二の次になり飼料摂取量が低下します。離乳時の環境温度は3週齢で28℃、4週齢で25℃です。そして湿度は60%台です。環境温度が維持されても湿度が60%を下回ると体感温度が下がり飼料摂取量の低下や咳が出始めます。また、ウインドウレス豚舎では換気扇のシャッター(排気側)にホコリが分厚く付着し、風圧で開きにくい状態になっていることがあります。換気不良から肺炎の集団発生に繋がるので、シャッターはこまめに掃除してください。
いかがですか?「何を今さら!」という声が聞こえてきそうですね。しかし、基本は大事です。再確認してみてください。ところで、分娩舎の回転や疾病の水平感染防止などを考えると、離乳即移動が有利です。しかし、効率を追求しすぎると思わぬところにしわ寄せがくるものです。色々と気をつけているつもりでも移動後の発育が思わしくない場合は、分娩豚房で離乳後1週間、子豚を飼養することをお勧めします。子豚にとって離乳と移動が重ならない分、ストレスが緩和されるので、飼料摂取量が増加し発育も良くなります。「豚は生きもの」、このことを忘れないでください。
「繁殖成績が低下して、離乳体重もバラツキ、その後の発育もイマイチ」というケースがあります。思い切って繁殖候補豚を導入して母豚群を若返らせましょう。産子数が増加し、哺乳豚も大きくなります。離乳子豚はより大きいほうが、腸内細菌叢が堅調となります。このため、小さいものよりも免疫力が高く、離乳後の発育が順調です。25日齢で離乳体重が10kg、100日齢で体重50kgに到達するものも出てきます。つまり、哺乳中に離乳後の優劣が決まると言っても過言ではありません。泌乳量の高い母豚をつくることがスタートラインです。
離乳時は前述したストレスにより疾病やトラブルが発生しやすい時期です。これらを早期発見し迅速に対処しなければ集団発生に繋がります。
1.下痢
下痢は離乳期には必発と言っていいです。一口に下痢と言っても食餌性のものから病原性のものまで幅広いです。
1)食餌性下痢
離乳即離乳舎に移動された子豚では、移動後3日間程度食欲が低下することがあります。そして、4日目以降から急に飼料を食べ始めるようになりますが、同時に黒緑褐色水様から泥状便を排せつします。放置すると発育が低下するので給与飼料に抗生物質やプロバイオティクスを添加しておきます。
2)病原性大腸菌症
病原性大腸菌の感染が原因です。淡灰色水様から灰褐色水様便を排せつし、急激な脱水で死亡します。死亡した子豚は痩せて目が窪んでいるのが特徴です(写真1)。また剖検所見では、小腸の表面が赤褐色に充血し、腸管が水溶性の内容物で満たされタプタプしている状態(アトニー)が特徴です(写真2)。これらが診断の決め手です。しかし、死亡豚が出始めてからでは沈静化に時間がかかります。次の症状がすべて認められたら要注意です。
病原性大腸菌は下痢毒のエンテロトキシンを産生します。しかも、浮腫病を起こす志賀毒素を同時に産生するものもあります。また多剤耐性が特徴であり、薬剤感受性パターンが異なる株が複数同時感染していることも少なくありません。
治療は発症豚房の子豚全頭に感受性のある持続性抗生物質を注射します。そして、飼料に抗生物質、炭酸亜鉛、有機酸またはプロバイオティクスなどを添加します。また飲水消毒も有効です。
発症豚の下痢便のなかに病原性大腸菌が多数含まれています。このため、容易に水平感染し集団発生します。そして原因菌による重度の環境汚染が起きるので、本症が発生した豚舎では再発しやすくなります。発症豚舎は念入りに洗浄消毒し、発症がなくともしばらくは予防措置を講ずる必要があります。なお、本症はカラスが媒介します。豚舎に防鳥ネットは必須です。へい死豚の処理も適切に行ってください。


写真1:病原性大腸菌による下痢症で死亡した子豚。急激な脱水で痩せて目が窪んでいる。


写真2:病原性大腸菌による下痢症で死亡した子豚の小腸。表面が赤褐色に充血し、腸管が淡黄褐色水溶性の内容物で充満


写真3:病原性大腸菌による下痢症の灰褐色泥状便
3)豚流行性下痢(PED)
妊娠母豚と哺乳豚に下痢や嘔吐など強い症状が現れます。とくに生後5日以内の子豚は100%近い事故率となります。離乳以降の肥育豚は症状が軽く不顕性感染の場合も少なくありません。しかし、肺炎やローソニアなどに罹患していると症状が重篤となります。また、分娩舎で本症が沈静化したあとでも肥育豚群からPEDウイルスが検出されます。これは移行抗体の消失が原因です。また、肥育豚群が分娩舎への感染源となります。例えば、離乳舎担当が分娩舎にヘルプに行くことでPEDウイルスを分娩舎にもち込む可能性を否定できません。初乳を飲む前に、新生豚の口にPEDウイルスが侵入してしまうと母豚がPED免疫を獲得していてもPEDが発症します。このようなケースでは離乳舎と分娩舎のドアノブからPEDウイルスが検出できます。再発防止には作業者の動線管理が重要となります。
4)サルモネラ症
サルモネラ症は下痢や肺炎を引き起こします。サルモネラ・ティフィムリウムは下痢を引き起こし、対処が遅れると発症豚は著しい発育不良となり衰弱死します。サレモネラ・コレラスイスは肺炎を引き起こします。子豚ではチアノーゼや呼吸困難など呼吸器症状が強く現れますが、多くは不顕性感染でありと畜場で発見されることが多い疾病です。サルモネラ症はコリスチンが飼料添加物として使用できなくなった現在、より感受性の高い離乳期に発生する可能性があります。また、環境汚染を起こすので清浄化に時間がかかる疾病です。そして本症を媒介するのはやはりカラスです。衛生管理に心掛けてください。
5)ローソニア
繁殖豚や肥育後期の豚ではタール便を排せつして急死します。離乳以降の子豚は下痢から発育低下となることが多く、前者は散発的ですが後者は発症日齢が固定化される傾向にあります。後者の場合、発症初期の下痢便からPCR検査でローソニアを検出できます。また、本症と大腸菌の合併症では重篤となります。肥厚した腸管が剖検で認められたら本症を疑います。その腸管粘膜からPCR検査でローソニアが陽性となれば確定診断して良いと思います。なお、離乳期で本症が陽性となった場合、外部導入した繁殖候補豚群にローソニアの急性感染が起こる可能性があるので要注意です。本症の対策には抗生物質や経ロワクチンが有効です。
2.肺炎
離乳子豚は強い環境ストレスに曝されているので、容易に集団発生します。原因は母子感染子です。早期発見と迅速な対処が必須です。
1)グレーサー病
本症に罹患した子豚は発熱し、呼吸促迫や腹式二段呼吸などの呼吸器症状を呈します。死亡豚は削痩しており、心外膜炎(写真4)、胸膜炎や関節炎など多発性漿膜炎や髄膜炎を引き起こします。発症から死亡するまで時間がかかるのでグレーサー病の原因菌であるヘモフィルス・パラスイスは病巣から検出できない場合がほとんどです。そして、同居豚群に強いストレスがかかっている場合は大きな被害となります。ストレスとはすなわち環境温度の低下、飼料の嗜好性が悪く栄養価が低い、または子豚が小さいなどです。


写真4:グレーサー病で削痩し死亡した子豚。重度の心外膜炎と腹膜炎が認められる
本症の症状は10~14日齢で現れます。まず、分娩舎で症状が現れているか否かの観察が重要です。発見したら直ちに発症豚を含め同腹豚すべてに持続性の抗生物質を注射します。必要があれば、離乳時に再度持続性の抗生物質を投与します。そして可能であれば発症豚は離乳後別所に隔離します。本症の対策にはワクチンがあります。母子感染が始まりなので、母豚にワクチンを投与することは有効ですが、発症豚の早期治療と離乳後ストレスの緩和が最優先です。
2)レンサ球菌症
本症は髄膜炎や肺炎、関節炎または心外膜炎など多発性漿膜炎を引き起こします。グレーサー病と類似しているので類症鑑別が必要な疾病です。しかも、グレーサー病や大腸菌症などとも混合感染を引き起こします。髄膜炎の場合は横臥して遊泳運動し、起立不能となります。反対向きにさせると嫌がり元に戻ろうとします。そして、下側の眼に眼球振盪が認められます。これらは髄膜炎の特徴です。また、関節炎は急性の場合が多く、強い痛みを伴いと歩行困難となります。「痛がって歩かない」が典型例です。グレーサー病と同様な対処が必要です。母子感染予防に母豚へのワクチンが有効です。
3)PRRS
離乳間近の子豚に被毛粗造、発育不良そして呼吸器症状などが認められたら、その子豚はPRRSウイルス血症を起こしているかもしれません。検査で確認してください。ウイルス血症が認められれば、離乳後は同腹豚を別所に隔離してください。離乳豚群にウイルス血症の子豚が多く加われば滲出性表皮炎(スス病)や肺炎(ヘコヘコ病)の集団発生に繋がります。感染豚は治療困難です。本症の予防には、母豚群の免疫安定化や肥育豚群から離乳子豚群への感染防止が重要です。
3.その他の疾病
1)耳かじり・尾かじり
飼料と豚房と収容頭数のアンバランス、嗜好性の悪い飼料給与または飼料落ちの悪い給餌器などお腹が空いて仕方がない状況に子豚が陥ると起こります。発見したら飼料が十分食べられない状況だと判断してください。給餌器の管理で発生を防止できます。離乳期では耳かじりが多いです。
2)マルベリーハート病
発育の良い子豚が突然死亡します。心臓表面の出血班と心嚢水の増量とフィブリンの析出が特徴的です(写真5)。また、同居豚に踏まれて肝臓破裂も起こりやすいです。セレンとビタミンEの欠乏が原因なので、母豚にビタミンやミネラルを強化してください。


写真5:マルベリーハート病。心臓表面の出血班と心嚢水の増量とフィブリンの析出が特徴的
離乳子豚は母豚の影響を強く受けています。とくに小さな子豚たちは母子分離症に陥りやすくストレスに敏感で、離乳時に起こりがちなトラブルを誘引します。これを防いでスタートダッシュを切ってください。大切なのは「飼養管理でストレス緩和」、「衛生管理で守る」です。目指せ「100日齢、体重50kg」!
詳細については管理獣医師にご相談ください。
ここからは要指示医薬品を含む動物用医薬品に関する情報を提供しています。
獣医療関係者を対象に、日本国内で動物用医薬品を適正に使用いただくため、日本の承認に基づき作成されています。
獣医療行為に携わっている方を対象にしており、一般の方、日本国外の方に対する情報提供を目的としたものではないことをご了承ください。
※要指示薬は獣医師等の処方箋・指示により使用してください。
獣医師・獣医療関係者 一般の方