Japan
印刷 印刷
Zoom Zoom
Text Size

マイコプラズマ , PRDC2018.8 養豚界一部改訂

呼吸器疾病の扉を開く?
M.hp による豚マイコプラズマ性肺炎

米国 ミネソタ大学 マリア・ピータース 先生

養豚場において、呼吸器疾病は事故のうち大きな割合を占めるが、特に豚マイコプラズマ性肺炎の原因であるマイコプラズマ・ハイオニュ—モニエ(M.hp)の感染は、他の呼吸器病原体に感染するきっかけをつくっているという報告も数多くあり、養豚関係者には長年にわたって広く知られている。ここでは、2018年3月に千葉県浦安市でゾエティス社が実施したAPACスワインテクニカルシンポジウムでミネソタ大学のマリア・ピータース氏が発表した資料をもとに、M.hpの感染動態やコントロールに必要な基礎情報を提供する。

事故の要因No.1は呼吸器疾病

(1)病気の予防

北米のデータでは、豚の事故率の一番の原因が呼吸器疾病となっている(図1)。下痢や外傷、ストレスなどの他の要因における事故を合わせたとしても、呼吸器の問題によるそれには及ばない。だからこそ、呼吸器疾病対策の重要性は高いといえる。

特に、複合感染の被害が大きいことは多くの方がご存じの通りである。豚呼吸器複合疾病(PRDC)の病原体の例を挙げると、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、豚インフルエンザウイルス、豚サーコウイルス2型(PCV2)、パスツレラ・ムルトシダ、そしてマイコプラズマ・ハイオニューモニエ(M.hp)などがある。

では、これらによる生産コストへの影響を考えてみたい。ある農場で実施した調査結果を、表1に示した。豚マイコプラズマ性肺炎の原因であるM.hpやPRRSウイルス、豚インフルエンザウイルスといった病原体に単独で感染した場合の1頭当たりの損失額は、0.63ドル、5.57ドル、3.23ドルだった。しかし、M.hpとPRRSウイルス、M.hpと豚インフルエンザウイルスなど、複数の病原体が組み合わさると、9.69ドル、10.12ドルとなり、M.hpの単独感染に比べて、有意にその損失額が高くなる。つまり、単体での被害はそれほど大きくなくても、複数の病原体、特にM.hpとの組み合わせで大きな被害となるため、この対策が重要になるといえるのだ。

M.hp による異物排除機能の破壊

豚のみに感染し、豚マイコプラズマ性肺炎の原因となるM.hpは、スイスを除く豚飼養国に浸潤し、被害をもたらしているとされている。M.hpはまず、気道の線毛に付着、破壊し、異物を排除する機能にダメージを与える。つまり、線毛は外部から体内に入ってきた病原体などの異物を吐き出す働きがあるため、例えば線毛が荒れた状態になると侵入した病原体を排除しにくくなり、肺への侵入が起こりやすくなる。言い換えると、M.hpの感染が、豚の呼吸器複合疾病のスタートとなっている可能性が高い。

感染動態を知り、戦略を練る

では、M.hpについてもう少し詳しくみていきたい。M.hpは50年以上も前に見つかっており、研究が進められている。例えば、30年前には肥育期にのみ問題を起こす疾病と考えられていた。これは、肥育期まで病変が表れず、咳などの臨床症状も肥育期にしかみられなかったためである。しかしその後の研究では、M.hpが豚の生涯において長期的に影響を及ぼす疾病であることが分かってきた。母豚から子豚への垂直感染がM.hpリスクのスタートとなるため、胎子のうちから肥育期までの対策を考える必要が出てきたのである。

コントロールの上で知っておきたいポイント

ここで、哺乳子豚について考える。離乳時のM.hp浸潤率は、国や地域、農場内でもバラついている。一方で、哺乳子豚における浸潤率は飼養環境や母豚、管理などに左右されることから、コントロールのためには浸潤率に差が生まれる理由を知る必要がある(図2)。

例えば、母豚の産歴もその1つである。表2で示すように、低産歴の子豚の方がそれ以外の母豚から生まれた子豚に比べ、M.hpの浸潤率が有意に高いという報告がある。

また、母豚の陽性率も子豚の陽性率に関わってくる(図3)。ピータース氏が実施した試験では、M.hp陰性の母豚から生まれた697頭のうち、3頭のみが離乳前後で陽性だった。一方で、M.hp陽性の母豚から生まれた子豚では、2週齢ごろから陽性のものが多くなった。つまり、母豚がM.hp陰性か陽性かが、子豚の陽性率に関わっているといえるだろう。

そして、生みの母豚が陰性であっても、同じ群内の母豚が陽性であれば、哺乳子豚の陽性率は日齢を重ねるごとに上昇すること、さらに陽性の母豚から生まれても、早期に離乳して抗菌剤などでコントロールをすれば、陰性になる可能性があることも示唆されている。
加えて、M.hp感染後、他の豚ヘの伝播がなくなるまでには8ヵ月以上かかる。なお、M.hpは伝播のスピードがゆっくりでもあるため、これらも念頭においてコントロールを行う必要がある。

M.hp のコントロール

では、どのようなコントロールが考えられるだろうか。その方法は主に4つあり①管理方法の見直し②抗菌剤の投与③ワクチン投与④撲滅の検討である。M.hpの撲滅は、北米において取り組んでいる農場が増えてきているが、撲滅の達成は単純に、また一筋縄にはいかない。

管理方法については、例えば里子がある。M.hpに対する免疫は初乳によって12時間で移行され、移行抗体はどの母豚からでも受け取ることができる。ただ、免疫細胞については生みの親以外のものは吸収できず、哺乳期の里子を行うか否か、またそのタイミングにより子豚の獲得量に差が生じる。なお、母豚にM.hpワクチンを投与し、12時間以上哺乳した子豚は、M.hpに体する細胞性免疫応答を示したことも確認されている。

抗菌剤は、注射以外にも飲水・飼料添加による投与も可能で、複数の病原体を標的にしているものもあるためM.hp以外の対策にもつながる。薬剤耐性については今のところ情報が少ないが、重要な問題ではないようである。ただ、M.hpには細胞壁がないため、ペニシリンなど効果を発揮できないものもある。つまり適切な薬剤を選択することが大切だ。

ワクチン投与は、感染を完全に防御するわけではないが、適切な投与により豚群レベルの感染リスクを減少させることが期待できる。とはいえ、効果がたちどころに出るものではないことを念頭におくべきである。

繁殖豚群の安定化

これまで代表的なコントロール方法をみてきたが、1つの特効薬はない。各ステージにおける、包括的な対策が不可欠である。
またピータース氏は、対策には安定した繁殖豚群を保つことが重要であると考え、近年は候補豚の馴致に注目しているという。前述の通り、感染してから排除まで8ヵ月間かかることを考えれば、候補豚を早期に導入し、陰性を確認してから繁殖豚群へ繰り入れることが大切である。

ただ、均一な暴露方法の確立も課題だ。ルースらの研究によれば、馴致の際に必要な豚群内における陽性豚の割合は、5割以上とされている。例えば、自然接触で陽性と陰性の候補豚を1:1の割合にするためには、広い豚房が必要になるだろう。また、M.hpを気管内に接種するという方法もあるが、頭数によってはかなりの労力がかかる。そのため、M.hpを入れこんだ液体を噴霧し、一斉に暴露するなどの方法も模索し研究中である。

また、M.hpの診断も大切である。サンプルは、気管の奥であればあるほど新鮮なものが採取できる。ただしM.hpの場合、他の病原体の診断に用いられることがある口腔液は推奨できない。なぜなら感受性が低く、誤診につながりやすいためだ。

今回は、M.hpの特性についてピータース氏の資料をもとに解説した。他の呼吸器疾病への感染の扉を開け得る病原体であることを理解し、PRDC対策の一助としていただきたい。