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PCV2 | 2018.06.24 Pig Health Today2020.4.6

PCV2:進化するウイルスと将来を見据えた考え

豚サーコウイルス2型(PCV2)は、養豚に従事する生産者や獣医師にとって、新しいウイルスではありませんが、絶えずチャレンジしていかなければならないものです。PCV2は養豚産業における感染症の上位3位にランクされており、ワクチン投与を受けていない豚群では、1頭あたり3ドル~22ドルの損失があります1

育成豚では、PCV2は繁殖能力に影響を与え、離乳後全身性消耗症候群を引き起こします。しかし、最大のリスクは二次感染の形で発生します。特に、呼吸器疾患であり、あらゆる週齢で豚サーコウイルス関連疾病(PCVAD)と合併して発症し、母豚群では繁殖障害を引き起こします。感染すると下痢や豚皮膚炎腎症症候群(PDNS)を発症する可能性もあります。

PCV2では、いくつかのことが明らかになっています。

  • このウイルスはいたるところにいます。農場に豚がいれば、何らかのPCV2が何らかの程度で存在すると言うことができます。
  • 非常に頑強なウイルスです。消毒剤で殺すのは難しく、熱に強いのが特徴です。
  • 二次感染に対応するためだけに、PCV2を治療することはありません。ワクチン投与は最も効果的なツールです。
  • このウイルスは時間とともに変異し続けます。いつ、どのように突然変異が起こるかは、多くはわかっていません。

刻々と変化するウイルス

「PCV2は、動物界で最も変異性の高いDNAウイルスの1つです」と、元アイオワ州立大学(ISU)の診断専門獣医師で、現在は JBA USAに所属しているダリン・マドソン博士は言います。「また、PCV2はいくつかのウイルスから構成されるもので、1つの遺伝子型の中に複数のウイルスが存在します。」

現在、米国にはPCV2としてa、b、d、eという4つのPCV2遺伝子型があります。世界的にはPCV2cとPCV2fの2つの遺伝子型が追加して特定されています。

PCV2aは2000年代初頭に米国で生産性上の問題として浮上し、2005年に急増したと、マドソン博士は説明します。2012年頃には、PCV2d(最初に「mPCV2b」と呼ばれた遺伝子型)が表面化して優位になろうとし始めた時に、別の大きな変化がありました。

マドソン博士の経験はアイオワ州立大学の獣医診断研究所(VDL)で特定された症例に関するものですが、彼はこの変化は現場で起きていることを明確に表していると考えています。「私たちは中西部の各地から症例を集めています」と彼は言います。「米国には50州ありますが、養豚が盛んな場所です。」

図1は、獣医診断研究所(VDL)に持ち込まれた検体の診断結果で、米国における5年間のPCV2ウイルスの変化を示しています。

獣医診断研究所(VDL)における結果は、PCV2dが最も広まった株であり、遺伝子型を調査した検体の70%を占め、2013年の30%から増加したことを示しています。PCV2bは2013年に56.13%でピークに達し、低下し始めましたが、最近では13.08%に少し上昇しています。PCV2aは過去5年間で最も変化が少なく、約13%のままです。

さらに問題を複雑にしているのは、2つの生産サイトの両方にPCV2bが浸潤しているとしても、実際には遺伝子型が異なるウイルスである場合です。 生産サイトでは、同じサイトに複数のPCV2遺伝子型(PCV2aやPCV2bなど)が浸潤していることもあります。複数の農場からそのサイトへ豚が導入されている場合、状況は悪化する可能性があります。

「時にはいくつかの遺伝子型が集まり、独自のウイルスを出現させることがあります。また、状況によっては二次感染を悪化させる場合もあります」と、マドソン博士は述べています。

ワクチンは最適なツールです

「米国では、基本的にすべての豚にPCV2ワクチンが投与されています。そうしなければ、生産性と健康状態に打撃を与えるからです。良いニュースは、ワクチンが非常に効果的であることです。」マドソン博士は強調します。「重要なのは、ワクチン投与の質に焦点を当てることです。つまり、すべての豚が適切なタイミングで適切な用量でワクチンを投与されるということです。」

「ワクチン投与中に豚を見逃してしまったり、用量を調整したりすると、PCV2はより高いレベルで複製できるようになります」と、マドソン博士は言います。「適切なワクチン投与により、ウイルス排泄と環境中のウイルス量を減少させることができます。これにより、変異の機会が最小限に抑えられ、ウイルス全体をコントロールするのに役立ちます。」もちろん、これは業界全体にとって重要なことです。

豚のほぼ100%は、若齢でPCV2ワクチンが投与されています。母豚候補豚も同様にワクチンが投与され、繁殖豚舎に入る準備ができたら2回目のワクチンが投与されます。しかし、母豚への再投与はあまり一般的ではなく、米国の全母豚の約10%~ 20%とマドソン博士は推定しています。

それで良いのでしょうか? 「それは生産者と獣医師が決めることです。」と彼は付け加えます。「豚群に期待する目標値、出荷までの流れ、農場のリスクレベルに依存します。」

しかし、豚にワクチンが投与されていないと、ウイルスが変異する機会が増えてしまいます。また、ワクチンが投与されていない豚群では、突然変異率が増加していることが科学的に示されています2

典型的にDNAウイルスは、高い頻度で変異するわけではないため、ワクチンに対してより敏感に反応しますが、PCV2は例外です。つまり、生産者と獣医師は、PCV2がどのように変化しているかを理解するために、その推移と遺伝子型の変化に注意を払う必要があります。今日では、PCV2bとPCV2dの罹患率の上昇とPCV2aによる症例の減少を監視する必要があります。

例えば、表1に示すように、PCV2bとPCV2dは、PCV2aとPCV2dよりも密接に関連しています。遺伝子配列と進化の歴史に基づいて、PCV2aとPCV2bは約93%同一であり、PCV2bとPCV2dは95%同一です3。繰り返しますが、これはウイルスが非常に異なることを示しており、これらの違いを監視することでワクチンの有効性に関する洞察が得られます。

農場では、問題が表面化するまで同じワクチン投与プログラムを続けるのが自然なことです。しかし、PCV2ワクチンのプログラムや投与タイミング、手順を定期的に確認することには利点があります。

「生産者が、問題があると考える場合、獣医とワクチンの投与プログラムを見直して、より良い防御を得るための戦略を考えなおす必要があります」とマドソン博士は指摘します。「何に対してどのように免疫を付与するのかについても当てはまります。」

彼は、市販されているワクチンが引き続き有効であることを強調しています。「現在は功を奏していますが、これからもずっとというわけではありません。私たちはそれを理解し、現状に甘んじてはいけません。」

生き残るために必要であるという以外にPCV2が変異する原因は不明です。「次の変化が7年後か、10年後か、もしくはそれ以上と推測する人がいます。」とマドソン博士は付け加えます。「過去にそうであったと同じように、PCV2はまた変異すると推測することしか私にはできません。」

PCV2診断について

PCV2診断に関連してマドソン博士が強く懸念していることは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法) に対して、業界が確固とした信頼を寄せていることです。「PCR法はPRRSのように本来、存在してはならないウイルスには最適な方法ですが、PCV2に関しては別の話です」とマドソン博士は言います。 PCR法はごく微量の病原体を識別しますが、どこにでもいるPCV2などのウイルスではあまり役に立ちません。PCV2の単なる検出は、必ずしも疾患と相関したり、ワクチンに効果がないことを示したりするわけではありません。

ただし、PCR法は豚へのワクチン投与または追加ワクチンの時期を決定するのに役立ち、配列決定は遺伝的変化に関する見識をもたらします。

PCV2の場合、本来あるべき問いかけは、あなたは感染症または疾患を診断していますか?ということです。「PCV2感染は、あるレベルで発生しているでしょう。ただそれだけです。」とマドソン博士は言います。より重要なアクションは、関連する病気を診断することです。これには、臨床徴候と顕微鏡によって病変をチェックし、ウイルスが豚群内で問題を引き起こすレベルにあるかどうかを判断する必要があります。

「そのほかに何を見ていますか?豚群の病歴は何ですか?」彼は付け加えます。「効果的なアクションを取るためには、診断パズルのすべてのピースをはめる必要があります。」

マドソン博士は、図2を用いて、PCVADの症例は2006/2007年にピークに達し、減少し始め、2009年頃からかなり安定していることを示しています。

「この表は、ウイルスが変化しているにもかかわらず、私たちの対策が機能していることを豚たちが教えてくれています」と彼は付け加えます。「米国の豚の100%にPCV2ワクチンが投与されており、米国養豚産業の傘のような役割をしています。個々に調整の余地は残っているかもしれませんが、それでも非常にうまく機能しています。」
問題はこれからも常にうまくいくか?です。

【参考文献】

  • 1 Gillespie J, et al. Porcine circovirus type 2 and porcine cir covirus-associated disease. J Vet Intern Med. 2009;23:1151-1163.
  • 2 Ssemadaali MA, et al. Genetic diversity of porcine circovirus type 2and implications for detection and control. Vet Sci. 2015;103:179-186.
  • 3 Xiao CT, et al. Global molecular genetic analysis of porcine circovirus type 2 (PCV2) sequences confirms the presence of four main PCV2 genotypes andreveals a rapid increase of PCV2d. J General Virol. 2015; 96:1830-1841.