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動物薬業界のグローバルリーダー企業であるゾエティスの日本法人社長・加藤が業界や業種の壁を越えてさまざまな人物と対談を行うスペシャル企画の第11弾 今回は落語界の第一人者である三遊亭円楽氏をゲストに迎えて、言葉を通してのコミュニケーション術、そして「伝える力」の神髄に迫る。

加藤 克利
KATSUTOSHI KATO

ゾエティス・ジャパン株式会社代表取締役社長。1966年7月4日、東京都神田生まれ。大学卒業後、会社勤務を経て米大学院に留学しMBA取得。2010年、ファイザーにコンパニオンアニマルビジネス統括部長として入社。16年ゾエティス・ジャパンの代表取締役社長に就任。18年より日本人初のインターナショナルのバイス・プレジデントに就任して日本に加え韓国も統括、20年からはアジア人初のシニア・バイス・プレジデントに就任して東南アジア、インド地域を含むアジア全体を統括。

三遊亭円楽
SANYUTEI ENRAKU

落語家。1950年2月8日、東京都両国生まれ。70年4月、青山学院大学在学中から五代目三遊亭圓楽の鞄持ちを務め、その後、入門。三遊亭楽太郎として活躍し、76年7月に二つ目に昇進した。77年8月から笑点の大喜利レギュラーメンバーを務め、79年1月に放送演芸大賞最優秀ホープ賞、81年1月に若手落語家努力賞を受賞。81年3月、真打ちに昇進。2010年、六代目三遊亭円楽を襲名。寄席、独演会、講演、テレビ、ラジオとマルチに活躍中。円楽一門会幹事長。


加藤克利
円楽師匠、本日はよろしくお願いいたします。
三遊亭円楽
こちらこそ、よろしくお願いします。早速ですけど、加藤社長は東京・神田の生まれだそうですね。
加藤
ええ。元々、神田の商人の家系でして、1892年(明治25年)に足袋屋を創業し、その後洋服屋を営んでおりました。神田では父親が3代目、私で4代目になります。
円楽
ほぉ、そりゃあチャキチャキの江戸っ子だ。〽芝で生まれて、神田で育ち、今じゃ火消しの~って唄もあるくらいですから、神田っ子といえば江戸っ子の代表みたいなもんですよ。
加藤
そう言っていただけると光栄です。師匠も墨田区の両国生まれ。今日は下町生まれの下町育ち同士、ざっくばらんに飾らない対談をお願いします。
円楽
高座とは勝手が違いますけど、一生懸命つとめさしていただきましょう。
加藤
さて、今年は新型コロナウィルスの感染拡大によって社会全体が大きなダメージを受けました。落語界も大変だったのでは?
円楽
ホールや演芸場、寄席がお休みになったり、独演会も中止や延期になりました。今まで誰も経験したことのないことが起きましたね。近頃はお客さんの数を制限して再開しています。
加藤
お客さんが少ないとやりにくいのでは?みんなマスクもしているし……。
円楽
私の場合はそうでもないんですよ。マスクをしていらしても、目が笑っているのは見えますし、笑い声も聞こえますから。楽屋では「お客は量より質だな」なんて冗談も言ったりしてね。それにこっちから見ていると、案外、ウィズコロナの今の方がお客さんは嬉しいんじゃないかと。
加藤
と言いますと?
円楽
今までは座席を詰めて座っていましたから、こっちから見ていると隣の客同士でヒジ掛けの取り合いが始まることがあります。
加藤
あぁ、よくありますね。
円楽
そのうちに反対側の客も加わったりしましてね。だから、負けた方は真ん中で小さくなって見なきゃいけなかった。それが今はお上からソーシャルディスタンスをとりなさいって言われて座席が空いてますから、荷物なんか置いたりして、広々と座ってます。
加藤
なるほど、それはこの時期だからこそですね。それにしても師匠は喋りながら、お客さんのことをよく観察していらっしゃいますね。
円楽
昔、プロレスラーのザ・グレート・カブキさんがいいこと言ってましたよ。「お客さんを見ていないレスラーはダメだ。レスラーは相手と戦ってんじゃない、お客と戦ってんだ」ってね。
加藤
それは金言ですね。お客の反応を見ながら戦ってこそプロだ、と。そういえば師匠は熱烈なプロレスファンとして知られています。実は私もそうでして、このスペシャル対談の第1回目のゲストはプロレスラーの天龍源一郎さんだったんですよ。師匠と中学の同級生だったとか?
円楽
彼のことは源ちゃんと呼ばせてもらってますけど、両国中学で一緒だったんですよ。若い時は一緒に朝まで飲んだくれて、無茶もしましたよ。
加藤
おお!まあ、その頃の武勇伝はまた改めてお酒の席で伺うとして……。
円楽
そうそう、今日は落語とビジネスの話だ。加藤社長も相当にプロレスがお好きなようだけど、あんまりそっちの方に脱線しないように注意しとかなきゃいけませんね。
加藤
ええ、お互いに気をつけましょう(笑)。さて、この対談が決まった後、私、3回ほど師匠の落語を見に行きました。寄席と独演会でしたが、どちらも素晴らしいものでした。
円楽
独演会で私、何をやっていましたか?
加藤
動物園という噺でした。
円楽
ああ、あのいい加減なヤツね(笑)。
加藤
いやいや、そんなことはありません。仕事を探している男が紹介されて動物園に勤めることになるけれど、実はそこは……というお話で、非常に楽しませていただきました。落語を見るのは初めてでしたが、とても驚きました。まさにイマジネーション、想像力をかき立てられる世界ですね。座布団に座って噺家さんが喋っているだけ……というと失礼ですが、それなのに聞き手の想像力をかき立てる。私もホールや寄席の椅子に座っていながら、どこか別世界にトリップしているような感覚でした。
円楽
お褒めに預かり光栄です。噺家というのはお客さんが話の中の風景を想像できるかどうか。それを考えながら喋らなきゃいけないんです。そのために言葉ではなく、ある意味、絵を送っているんですよ。いちいちあれがどうした、これがどうしたという説明はないけれど、ちゃんとした人の落語は風景が見えるんです。
加藤
確かに見えました。師匠の落語を聞いた後、これはビジネスの参考になるなと思いました。ポイントは三つありました。まず一つが「伝える力」のすごさ、二つ目が絶妙な「間の取り方」、そして三つ目が人の「心を掴む術」に優れているところ。落語とビジネスの意外な共通点を発見して目からウロコが落ちた思いです。
円楽
そう言っていただくのは大変光栄ですけど、噺家の全員が全員そうじゃないですからね(笑)。いくら一生懸命やっても、ただ汗をかいているだけ、声の調子も変わらない、感情も乗り移らない。要するにヘタなヤツというのはいるもんです。これはビジネスマンだって同じでしょう。ベラベラ喋るだけじゃあ商品を売ろうとしても、お客さんの心には届かない。
加藤
まったくその通りですね。そのためにも今回、落語界の第一人者である円楽師匠に、落語で培った「伝える力」について教えていただければと思っています。
円楽
そこまで頼まれちゃイヤとは言えません。ところで、このゾエティス・ジャパンという会社は動物用の薬を扱っていると聞きました。犬や猫の薬ですか?
加藤
では、改めて弊社の業務内容を説明いたしましょう。ゾエティスは動物用医薬品の開発と製造、そして販売を行う、業界のリーディングカンパニーです。コンパニオン・アニマル、いわゆる今、師匠がおっしゃった犬や猫などのペット用の医薬品と、牛豚鶏の畜産用の医薬品を扱っています。ペット用には様々な病気から大切なペットを守るワクチンや、フィラリアの薬、かゆみに対する薬などがあり、ご家族にとって大切なペットの病気を防ぎ、治療します。こうした薬の提供はペットのクオリティ・オブ・ライフ(QOL、生活の質)を上げ、同時に飼い主さんの幸せやQOLの向上にもつながります。また畜産用の薬は牛豚鶏の健康を守ることで、社会への安全な食の提供につながっています。
円楽
ペットだけではなく畜産の方も⁉いや、それは大したもんだ。
加藤
ありがとうございます。我ながらとても社会貢献度の高い業種であると自負していますが、それでもまだ動物医療という業界も、ゾエティスという会社も社会的知名度は決して高くありません。私は社長に就任した2016年から、こうした状況を変えようと、業界と会社の認知度アップに取り組んできました。今回で第11弾となるこの対談シリーズもその一環でして、第1回の天龍さんから円楽師匠まで一流の方々の力をお借りして、少しでも業界の認知度を上げられたらと思っています。
円楽
いや、私で良ければ、いくらでも協力は惜しみませんよ。犬や猫を飼っていましたから、きっとどこかでお世話になったでしょうから。
加藤
師匠、それは心強い!では早速、冒頭でも少し触れた「伝える力」について話しをしていきたいと思います。ビジネスにおいて「伝える」という行為は常に存在します。会社の同僚間から始まり、上司から部下へ伝える、取引先に伝える、お客様に伝える……。あらゆる場面で存在します。このときに 一 番大切なのは「伝えたつもり」にならないことだと考えています。これは日常生活でもありますよね。伝えたつもりが、伝わっていなかったということが。これによって問題が生じたり、話がこじれたり、ときには対立が起きることも珍しくありません。
円楽
言った言わない、そんなことは聞いてないってヤツですね。
加藤
そうです。それによってせっかくの関係が崩れてしまうこともあります。だから「伝える力」というのはビジネスを遂行する上で必要不可欠な要素です。物事を他人にきちんと伝えるときに重要なことは何か?私は大きく3つあると思っています。一 に「熱意」、 二に「明快」、 三に「共感」。「熱意」はその言葉通りで、熱意のない人の言葉が他人に届くとは到底思えません。「明快」はロジックがきちんと組み立てられているとでも申しましょうか、筋の通っていない支離滅裂な話だと伝わるものも伝わらない。そして最後にあげた「共感」は、言い換えれば聞き手の立場に立つこと。これが最も重要じゃないかと考えます。伝えたつもりに陥るケースというのは、多分にこの要素が抜けていることが多いと思っています。

円楽
ビジネスの世界でそういった具体例は?
加藤
そうですね、例えばお客様にある製品を提案したものの、購入には至らなかった。この場合、製品が悪いのではなく、伝えたつもりで終わっている、お客様に提案内容がしっかりと伝わっていないことが原因であることがほとんどです。そして多くのケースにおいて売り手が自分の方から見た話に終始し、相手のニーズや立場を考慮した話ができていない。すなわちその場に共感がない、ということだと思っています。そこで師匠に改めて伺います。落語というのはまさにこの「熱意」、「明快」、「共感」の3要素を見事に具現化している古典芸能です。師匠が落語を通してお客様に伝えるときに意識していること、重要だと思っていることは何でしょうか?
円楽
落語にはいろいろと決まりごとがあります。しかし、それ以前に、師匠から言われたのは「話すときにやっちゃいけないのはソベンカタコトチョウフクショウセイだ」って。
加藤
ソベンカタコト…ですか?
円楽
文字にすると「粗弁、片言、重複、小声」です。粗弁は粗末な弁舌、ヘタクソってことで、これが一番いけないこと。次の片言は、「えっと」や「あのー」といった言葉が入ること。次の重複は、「なになにで、なになにで、なになにで、なになにで」と、同じ語尾でリズムを取るような喋り方。他にも「ね」が多いとか、「ところで、ところで」が続くのも重複です。そして最後は小さな声。これも粗弁と並んで一番良くないことです。昔から、入門するとまず最初に言われることですね。あと社長の言われた共感という部分では、落語で特に本題に入る前の小噺であるマクラなんかは、こっち側の勝手でやっていちゃあ、お客さんを楽しませられない。マクラという時節の話題から徐々に時代を遡っていって、ポンと話に入ったら自分の世界。それが落語ってもんですから。
加藤
師匠はこの前、マクラで「ソーシャルディスタンス」の話をされていましたね。「近頃、ソーシャルディスタンスって言われてるけど、そんなもんは何十年も前から夫婦の間にはありましたよ。距離は埋まらねぇし、溝はあるし、最近では地雷まで埋まってる」みたいな。ああいう時事ネタを入れるさじ加減もうまいなァ、と勉強させていただきました。
円楽
でもね、社長、気をつけなきゃいけませんよ。伝える力なんて言っておきながら、ウケないときに落語家は「なんだい、今日は。客が悪いや」って言っちゃえばいいんですから(笑)。勝手なもんですよ。
加藤
アハハハ。そこは見習わないようにしておきます。さて、ここまで師匠の江戸弁でトントントンと対談が進んできました。下町生まれ同士、会話も響き合いとても心地が良い。やはり師匠には下町生まれ、下町育ちというイメージがぴったりですね。
円楽
そそっかしいところがあるし、喧嘩っ早いところもある。典型的な下町の人間ですよ。噺家になってから、だいぶおとなしくなりましたけど、今でも祭りとなったら血が騒ぐ。加藤社長もそうでしょう。
加藤
そうですね。私も祭りは大好きですし、お酒も大好き。あとはやっぱり義理人情の世界に生きてきた。典型的な下町の人間です。
円楽
ああ、そりゃあいいことですよ。
加藤
でも下町育ちの義理人情と、今、私がいるビジネスの世界というのは相反する部分があります。

円楽
しかも外資系企業ならなおのことだ。
加藤
おっしゃる通りです。下町の義理人情の世界で育った私ですが、企業のトップとして厳しい判断や決断を求められることがあります。そういうときにやはり人情味が出たりするのが、少し辛い。
円楽
経営者はアメリカ的合理主義を取り入れなきゃいけないし、今の日本は年功序列制度や終身雇用が崩れているからドライになるのは仕方がない。でも、やはり社員の向こうには家族がいるし、取引先の担当者にも家族がある。もっと言えば可愛いペットだっている。義理人情にばかりに縛られてはいけないけど、根っこの部分で人情味というものが残っていればいいんじゃないですかね。
加藤
そう言っていただけると気持ちが楽になります。
円楽
それにしても外資系企業に下町生まれの江戸っ子社長っていうのも随分、面白い組み合わせですね。
加藤
たぶん私くらいしか例がないんじゃないでしょうか。
円楽
下町生まれってことなら、いっそのこと祭りの神輿の先棒担ぎみたいに、仕事でももっと調子に乗っちゃえばいいんですよ。いるでしょ、神田祭りでも。神輿の先棒を真っ先に担いで、「あの野郎、お先棒担いでやがんな」なんて言われている、お調子者が。
加藤
いますいます…私も江戸っ子、先陣を切るという意味では、社長になってから業界に革命を起こそうと頑張っています。中でも力を入れているのが業界メジャーリーグ化構想です。
円楽
メジャーリーグとは結構、大きな風呂敷ですよ。
加藤
はい、広げるだけ広げた大風呂敷だと思っています。でも決して絵に描いた餅ではありません。先程も申し上げましたが、ゾエティスは動物医療におけるリーディングカンパニーであり、我々のいる動物医療業界の社会的貢献度はものすごく高いものがあります。その動物医療業界の貢献度に見合った認知度を得るために業界そのものを改革したい。そのために私がスローガンとして掲げているのが「業界メジャーリーグ化構想」です。業界の認知度を上げることで優秀な人材の流入を促し、それを業界全体の発展と成長につなげていく。そうやって業界を活性化させたいと思っています。最初は同調してくれる人は皆無でしたが、徐々にその数は増えていき、今では結構な手応えを感じています。
円楽
社長の担いだ神輿を一緒に担ぐ仲間が出てきたってわけですね。
加藤
はい。まさに動物医療という大きな神輿をみんなに知ってもらおうと最初は私だけ張り切って担いでいましたが、今では「メジャーリーグ化構想」に賛同した担ぎ手が増えてきました。さらに業界外からの問い合わせもここ数年で増え、新聞や経済雑誌に取り上げられることも多くなっています。また今年から私がアジアのリーダーにも就任したことで、舞台を日本のみならずアジア全体に広げ、積極的に情報発信をしています。先日は韓国のマスコミの取材も受けましたし、山は少しずつ動いていると実感しています。
円楽
下町育ちらしい、フットワークの軽さを感じますね。
加藤
ありがとうございます。師匠も落語界では常にリーダーシップを発揮されていますね。
円楽
昔、師匠である五代目圓楽が協会と袂を分かって円楽一門として独立しました。今、孫弟子まで入れると円楽一門は60人もいます。一大勢力ですよ。協会もふたつに分かれていて、そこがライバル同士ということになっていますけど、私に言わせたら落語界は一つでいい。競い合うのは協会じゃなくて、一門だと。円楽一門、古今亭一門、林家一門、小さん一門とかね。全体で芸を競えばいい。団体は一つ。私はそう考えているんだけど、ほとんどの人間はそう思ってない。協会を一つにと話をしても「楽さん、そりゃ難しいよ」ってね。難しいっていうのは、要するに逃げ。「面倒なことはしたくない」って言い訳なんですよ。
加藤
私も社長に就任し、業界の改革を提唱した際には、同じようなことをよく言われました。動物用医薬品業界はまだ古い商習慣が残っている世界でしたから、いくら「メジャーリーグ化構想」を説明しても、「加藤さん、それはわかるけど難しいよ」って。
円楽
どこも一緒ってことですな。でも、私ももう70歳。そろそろ落語界に恩返しの意味でも、もうひと頑張りしなくちゃいけないかな、と。お客さんを喜ばせるためにもね。
加藤
師匠の頑張り、私も応援します!そういえば、師匠は大病を2度ほど患われましたが、今ではすっかり意気軒昂。お元気そうで何よりです。
円楽
最初は一昨年に肺がんが見つかって、手術をしました。それで1年前には脳腫瘍だと言われてね……。
加藤
大変でしたね。
円楽
いや、どちらも私は死ぬとは思っていなかったんですよ。何とかなるだろう、と。脳腫瘍って聞いたときは「うーん、のうしゅよう」ってシャレを言ったくらいでね。「楽ちゃんは気楽だね」なんて言われるけど、本当にそう思ってんだからしょうがない。でも、肺がんが見つかったのが、桂歌丸師匠の四十九日で、手術の日が百箇日だったってネタにしたけどね。おいおい、歌丸が呼んでんじゃないだろうね、って。「呼ばないでくださいよ」って、墓参りだけは欠かさないようにしていますよ。

加藤
病気をされてから意識に変化はありました?
円楽
薬というのはすごいもんだなと思いましたよ。最初の抗がん剤が合わなかったから、免疫治療の薬にしたら、いろいろな数値がスーッと下がっていった。薬のおかげでこうやって元気でいられる。「命を助ける」ということで言えば薬はすごいな、と感心していますよ。野生動物ならジーッとしているしかないけど、それが薬のおかげで助かるんですから。そういう意味では加藤社長の会社もすごいもんだ。だって動物の病気を予防したり治す薬を作ってるんですから。犬や猫が喋れたら、「ありがとう」って感謝すると思いますよ。
加藤
そう言っていただけると励みになります。さて、今回の対談に際し、師匠の本を読ませていただきました。タイトルの「流されて円楽に、流れつくか圓生に」というのが、実に自然体な生き方を表現してらっしゃいますね。
円楽
噺家になってからずっとそうですよ。流れに乗っているうちに、それが上げ潮でバーッと上に行って、ときには杭に引っかかったりしながらも、どうにか引き潮には飲まれずにここまで辿り着きました。ときには失敗もありましたけど、大失敗をしなけりゃいいんですよ。加藤社長もそうでしょう?
加藤
まったくその通りで、私もこれまで相当失敗を経験してきました。こう言うと我が社の社員に「社長が失敗だらけで大丈夫?」と言われてしまうかもしれません。しかし数多くの失敗を経験し、そこから多くのことを学び、ある意味失敗の仕方、そして失敗の活かし方というのを身につけたのでしょう。それにより師匠のおっしゃる通り、致命的な失敗はしないでここまで来られました。困難に直面し、それを乗り越えることこそが学びの宝庫だと思っています。
円楽
最近はコロナでビジネスの方も大変なんじゃないですか?
加藤
私も社員も全員が前向きに捉えるようにしています。コロナ禍をきっかけに在宅勤務やデジタル化の加速など、5年先、10年先だと思っていた将来の姿が予想外のスピードで実現しています。この時期をどう乗り越えるかで、企業も個人も大きく差が出るでしょう。「あれができない、これができない」とネガティブに考えてしまいがちですが、逆にこの時期だからこそできること、挑戦できることが山ほどある。社員には「今だからこそできることに目を向けて取り組んで欲しい」と言っています。それこそ失敗大歓迎、どんどん新しいことをやっていこうと発破をかけています。
円楽
いやいや、加藤社長の肝の座り方、さすが江戸っ子ですよ。まあ正直に言えば、私は今も失敗だらけですけどね。
加藤
この間の独演会でも、ちょっとだけ失敗が……。
円楽
えっ?なんか、ありましたっけ?
加藤
西行歌行脚という噺の途中で……。
円楽
ああ、はいはい!ネタの最中に呂律が回らなくなって、何喋ってんだってなってね。いやいや、失礼しました。
加藤
師匠がすごかったのはその後ですよ。失敗を逆手にとり、「次の独演会ではちゃんとやりますから、またお運びを」と、宣伝に使ったところです。あれで笑いもとれたし、前売り券はさらに伸びたんじゃないでしょうか。
加藤
亀の甲より年の功、ただでは起きないってことです(笑)。
円楽
さて、そろそろお開きの時間です。最後に毎回ゲストの方から私、加藤へのエールをいただいています。師匠からもひとつお願いします。
加藤
仕事をする以上、リーダーにならなきゃダメだし、リーダーになったら業界のトップにならなきゃいけない。みんな「トップになると何が違うんだい?」って聞くけど、トップは決心が違うよ。それに山だっててっぺんから見たら景色が違うよ、と。あとはとにかく前へ前へ進むことですね。
円楽
とにかく一歩前へ、なんだか力が湧いてきますね。
加藤
でしょう。私は小学校のときからずっと一番前の席でした。それは授業中に先生の話を全部、取り込みたかったから。後ろの席に座ってたんじゃ前のヤツが邪魔になる。小さい頃からそうだから、何でもかんでも前に出る性分になったんでしょうね。社長も前へ、前へですよ。
円楽
ありがとうございます。今回、円楽さんとの縁で落語に触れることができました。これを機に落語を通して、「伝える力」をもっと磨きたいと思います。師匠の喋りを見習えば、プレゼンももっとうまくなりそうな気がしています。
加藤
社長も今はアジアのトップ。下町生まれの心意気でもって、世界を相手に一番になっちゃってくださいよ。
円楽
師匠、江戸っ子の血が騒ぎます!ありがとうございました。