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動物薬業界のグローバルリーダー企業であるゾエティスの日本法人社長・加藤が、業界や業種の壁を越えてさまざまな人物と対談を行うスペシャル企画の第9弾。今回はサラリーマン経験を通して漫画家に転身し、国民的大ヒットシリーズ の作者で日本を代表する漫画家である弘兼憲史氏を相手に、プロフェッショナルとは何か、そして組織においてキャリアを成功に導く秘訣に迫る。

弘兼 憲史
KENSHI HIROKANE

漫画家。1947年9月9日、山口県生まれ。早稲田大学を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)勤務を経て、74年に漫画家デビュー。サラリーマン時代の体験をいかした「課長島耕作」は83年から連載を開始。91年、同作にて第15回講談社漫画賞・一般部門を受賞した。その他、「人間交差点」(第30回小学館漫画賞)、「黄昏流星群」(第32回日本漫画家協会賞大賞)などヒット作多数。

加藤 克利
KATSUTOSHI KATO

ゾエティス・ジャパン株式会社代表取締役社長。1966年7月4日、東京都神田生まれ。大学卒業後、会社勤務を経て米大学院に留学しMBA取得。2010年、ファイザーにコンパニオンアニマルビジネス統括部長として入社。16年ゾエティス・ジャパンの代表取締役社長に就任。18年より日本人初のインターナショナルのバイス・プレジデントに就任して日本に加え韓国も統括。20年からはシニア・バイス・プレジデントに就任して東南アジア、インド地域を含むアジア全体を統括。


 
加藤克利
弘兼さん、本日はよろしくお願いします。
弘兼憲史
こちらこそ、よろしくお願いします。
加藤
弘兼さんは漫画「島耕作」シリーズでお馴染みです。私も愛読者であり、社会人になってからは「島耕作に生き様が似ている」と言われることもありました。本人としては「そうなのかな?」と思う部分もありますので、今回は生みの親である弘兼さんとの対談を通じ、そのあたりを解き明かしていきたいと思っています。
弘兼
あれっ、そういえば今日の加藤さんの髪型は島耕作にちょっと似ていませんか?
加藤
気づいていただけましたか(笑)。実はスタイリストさんに頑張ってもらい、ヘアスタイルを島耕作に似せたんです。
弘兼
アハハハ。そこまでしていただけると作者冥利に尽きますね。それにしても加藤さんは島耕作に比べると随分とお若い社長です。おいくつですか。
加藤
53歳になりました。島耕作は弘兼さんと同い年という設定ですよね?
弘兼
描き始めるにあたって、島耕作の生年月日は僕と一緒にしました。72歳だから、あと3年経てば2人とも後期高齢者です。でも島耕作が現役でいるうちは僕も現役でいなきゃいけない。島耕作がリタイアするまでは、漫画を書き続けなくちゃいけないということです。
加藤
ビジネスマンとして先輩の島耕作、そして人生の先輩である弘兼さんから今日はいろいろと学びたいと思っています。
弘兼
ゾエティス・ジャパンは動物薬業界の最大手だと伺っています。そこのトップということで仕事のやりがいもあるんじゃないですか?
加藤
やりがいもあり、プレッシャーもありといったところです。ただ、自分が就任する前に考えていた以上に、社長という仕事は刺激的ですね。
弘兼
アハハハ。椅子でふんぞり返っているだけでいい。こんな社長像はイメージだけの世界ですよね。ところで、加藤さんは社会人として働き始めてから「社長になろう!」という野心を持ったことはありましたか?
加藤
いや、それが一度もないんですよ。1990年に社会人生活がスタートし、4年前の2016年に社長に就任しました。でも、一度も「社長になろう」と意識したことはありませんでした。社長というポジションは別次元だと。目標ですらなかったですね。
弘兼
やはりそうですか。以前、「社長島耕作」を描くにあたって、私はいろいろな企業の社長にインタビューをしたんです。そのときに「はじめから社長を目指していた」と言う人はひとりもいませんでした。それどころか、ある日突然、「社長をやれ」と言われ、面食らったケースが結構ありました。たとえば三菱自動車工業前社長の益子修さんなんて、社長になることを2日前に言われたそうです。漫画でそんなことを描いたら「ウソつけ!」と編集にどやされてボツになります。まさに事実は小説より奇なりですよね。
加藤
2日前ですか!? それほど直前ではありませんでしたが、私の場合は1カ月前でしたね。
弘兼
いずれにしても社長というポジションには、「なるぞ、なるぞ」と思っている人が就くのではなく、地道に仕事をした人が評価され、周りに推されて就任するというかたちが理想なんでしょうね。島耕作にも当然「出世欲」はなく、周囲に推されながらポジションを上げ、そして社長に就任しましたからね。
加藤
しかし、実際に就いてみると社長というポジションは面白いですね。当然、プレッシャーはありますが、ものすごくやりがいがあると感じています。目の前の課題をクリアしていく、という意味では社長になってからも変わっていません。社長である私としては、後進に対して、社長というのはものすごくやりがいのあるポジションだ、ということを伝えるのもひとつの役割なのかなと思っています。
弘兼
後継者を育てることも社長の大切な仕事だといいますよね。これもいろいろな社長から聞いたことですが、後継者というのは自分が社長をやっているうちから「こいつにしよう」とある程度は見つけておかないといけないそうですよ。
加藤
おっしゃる通りですね。それにしても弘兼さんと話していると、ときどき島耕作と話しているのかと錯覚することがあります。ビジネスの現場でも通用する金言が次々に出てくるあたり、やはりビジネス漫画のパイオニアは違いますね。
弘兼
いやいや、褒めていただいて恐縮です。自分で島耕作を読み直すとですね、登場人物のセリフで「こいつ良いこと言ってるなぁ」と思うことがあるんですよ。でも、よく考えたら、そのセリフは僕が考えている(笑)。まあ、「社長 加藤克利」に少しでもお役に立てたら幸いです。
加藤
そんな弘兼さんに伺いますが、弘兼さんの考える社長の役割はどういうものでしょうか。
弘兼
社長と一口に言っても、オーナー社長とサラリーマン社長では立場が違います。たとえばオーナー社長であるソフトバンクの孫正義さんやユニクロの柳井正さんという方々は、思い切った手が打てると思うんです。万が一、これが失敗したら会社が大きく傾く、もしかしたら潰れてしまうかもしれない。そういう大勝負でも果敢に打って出ることができる。 でも、サラリーマン社長の場合には、多方面に気を使わなくてはいけない。株主、従業員、さらにはその家族、しかも関連会社も含めて全員のことを考えなくてはいけない。そうすると割と保守的なビジネス戦略になってしまうと思うんですよ。でも、それは立場を考えれば両者に違いがあるのは仕方のないこと。その中で私が考える社長の役割というのは、旗振り役というか組織の羅針盤になることですね。
加藤
羅針盤ですか?
弘兼
そうです。いずれにしても社長がリーダーシップをとるためには目標を明確にして、今この会社がどこに向かっているのか、あるいは今後、何をやるのか?それを社員にはっきりと示すことが大切なんじゃないでしょうか。
加藤
社長業とは何か。私はある意味、「雑用係」だと思っているんです。しかし、雑用と言っても仕事は多岐に渡ります。そんな中、最も大切なのは弘兼さんもおっしゃった、誰もが納得しうる明確なビジョン作りでしょうね。組織をひとつにまとめ、そしてひとつの方向へ進むように導く。これは社長にしかできない仕事だと思っています。
弘兼
では、ゾエティス・ジャパンを率いる加藤さんが示す方向性とは何でしょう?
加藤
革新的、イノベーティブな製品を開発し、世に出し続けて社会に貢献することです。私はこれをゾエティス・ジャパンの使命だと規定しています。動物用医薬品業界に限らず、どの業界もそうでしょうが、他社のまねごとをして後追い商品を出し、価格競争に陥ってしまうことは業界全体の疲弊、市場の縮小につながります。そうならないためにも、革新的な製品を世に送り出し、新たな市場を創造し、拡大していく必要がある。これがゾエティス・ジャパンの目指すところです。実際2016年に、人体薬では実現できていないアトピー性皮膚炎に対する革新的な薬を発売するなど、ゾエティス・ジャパンは常に業界に革新を起こし続けています。これがブレることのないゾエティス・ジャパンの方向性ですね。
さて、弘兼さんには「グローバル」についてもお伺いしたい。というのも「社長島耕作」で島耕作が掲げたスローガンが「シンク・グローバル」でした。外資系企業のトップである私にとって「グローバル」という言葉は常について周ります。果たしてグローバルな視点、グローバルな人材とはどういうものか、弘兼さんはどうお考えですか?
弘兼
2000年代に入ってから、日本は国内市場が縮小しています。これから事業の半分は海外でやるという会社がますます多くなってくるでしょうね。社員の3人のうち1人が海外赴任するという時代が近づいています。そうなるとグローバルな人材には、まず英語力がマストになるでしょうね。韓国のサムスンを取材したときのことです。あそこは世界中からエリートが集まるような会社ですので、TOEIC900点以上とかそういう人ばかり。さらに課長職になると920点以上が求められる、そういう高いハードルがあります。
加藤
私の語学力では、その会社だと課長にもなれませんね(笑)。とはいうものの、ゾエティス・ジャパンの代表として、日によっては海外のメンバーと入れ替わり立ち替わり、テレビ会議を1日中していることもあります。他の会社では社内公用語を英語にしているところもあったりしますから、英語力がグローバルな人材にマストなのは当然です。でも、それが全てではない。
弘兼
ホホーッ。と、いうと?
加藤
外資系企業の人材で重要なのは、"Think globally, act locally."。直訳すれば「グローバルの視点でものごとを考え、各国・地域に合わせたかたちで行動する」ということです。具体的にいえばグローバルのやり方をすべての国や地域に適用すると失敗するし、その国や地域のやり方がすべて正しいと思っていると井の中の蛙で終わってしまう、ということです。

弘兼
視野は広く、そして臨機応変に、と。
加藤
はい。ゾエティスという会社は、外資系企業としてイメージされがちな完全トップダウンの組織ではありません。きちんとそれぞれの地域の意見や手法を尊重してくれています。社長である私にとっても、そして現場で働く社員にとってもこれはとてもありがたいことです。それにより、最終的には最適な製品やサービスを提供できるのでお客様にも大きなメリットがあります。
弘兼
東南アジアでの島耕作の活躍を描いているとき、ライバル社としてソムサンという企業を登場させ、そこにいいようにやられてしまうというエピソードを盛り込みました。敗因は組織として小回りが利くかどうか。多くの日本企業はアイディアを一度、日本の本社に送ってお伺いを立てなければ何も決められない。対してライバル社は現地で意見を聞き、小回りを利かせて商品開発をドンドン先に進めていく。取材した現地の日本企業は「いいように(外国企業に)やられていますよ」と愚痴をこぼしていました。その国や地域のやり方に合わせるということは、グローバル時代においてこそ重要なことなんでしょうね。
加藤
私が考えるグローバルな人材に必要な要素はこうです。まずは日本人としてのアイデンティティをしっかりと持ちながらも、異文化に溶け込むことができ、多角的な視点を持って行動できる—。こういう人物です。かみ砕いて言えば、お互いの違いを認められる、相手の立場に立って物事を考え理解できる。こうしたことは机の上の勉強では身につきません。実際に海外に出かけ、現地の文化や人々に触れることで養われると思っています。
弘兼
そういえば、加藤さんも大学時代のアメリカ留学を始めとして、今も時間があれば世界各国に行っているそうですね。
加藤
はい。先日も中東を訪れるなど世界を飛び回っています。弘兼さんも取材などで多くの国を訪れていますよね。
弘兼
ええ、漫画で悪口を描きすぎて「もう行かない方がいいですよ」と言われるような国もありますけどね(笑)。でも、こうやって世界の国々を訪れていて思うのは、日本の若い人をあまり見かけないということです。先日、オランダの農業大学に取材に行ったときのことです。日本でいうと東大や京大並みのトップクラスの大学なのですが、昼休みに学食に行くと東洋人はいっぱいいても、日本語が聞こえてこない。ほとんどが韓国や中国からの留学生なんです。聞いたら日本からの留学生は1人か2人しかいない、と。韓国や中国の学生たちがパワフルに海外でいろいろなことを吸収しているにもかかわらず……。なんだか10年後、20年後が怖くなっちゃいましたね。さらに海外どころか県外に出る人も今は少なくなっているという話も聞きました。私は早稲田大学の出身ですが、昔は地方からの学生がいっぱいいました。それが今は東京近郊の学生で6~7割を占めているそうです。

加藤
今はインターネットとスマートフォンがあれば、バーチャルで何でも体験できる時代です。でも、そのバーチャルな体験には大して価値はありません一方、実際に現地で体験したこと、人と触れ合うことで得た情報には価値がある。本当の意味でコミュニケーション能力が問われる時代になってきましたね。
弘兼
今は連絡も口頭ではなくスマートフォンやパソコンでやるから、本当の意味でのコミュニケーション能力が落ちているのかもしれません。例えば、実際に多くの人と接していれば「あっ、今はこれを言っちゃまずいな」とか人間の機微がわかるようになってくる。これも組織を生き抜く上でビジネスマンに必須のスキルです。
加藤
いや、本当にその通りだと思います。ちなみにですが、それは出世にもつながるスキルですか?(笑)
弘兼
かもしれませんね(笑)。出世といえば、以前、経済紙で「銀座のママに聞く」という企画があり、そこでママ2人と鼎談をしたことがあるんです。彼女たちは出世する男の条件として、「コメント力」「段取り力」「モノマネ力」の三つを挙げていました。
加藤
それは興味深い話ですね。詳しく教えていただけますか?
弘兼
コメント力は、自分の専門だけではなく、広く浅くどんな話題であっても対応できる会話能力です。経済の話もできれば、スポーツの話もエンタメ系の話もできる。女の子を飽きさせないということでしょうか。これはビジネスにも通じる。ふたつ目の段取り力はバーに着いたとき、ただ席に座るのではなく、誰が何を飲むか、二次会はどうするか、タクシーの手配はどうなっているか……。つまり計画力のある男のことだと。
加藤
そこまでは納得です。三つ目のモノマネ力とは?
加藤
芸能人のモノマネをして女の子を喜ばせる、というわけではありません。ママによれば、他人の良いところを自分のものにできる男だと言うんです。要するに、男という生き物は年齢を重ねれば重ねるほど意固地になる。せっかく、良いものを見聞きしても、取り入れたがらないんだと。出世するタイプは、この逆らしいです。良いと思ったらパッと取り入れちゃう。それだけ頭が柔らかいということなんでしょうね。
加藤
いや、勉強になりますね。考えてみれば、はじめからオリジナリティーのある人物なんてそうはいない。様々なものを見て、様々な人に接して自分なりのものを作り上げていくんでしょうね。
弘兼
全くその通り。漫画家もそうですが、最初からオリジナルの絵や作風がある人なんていません。僕の場合は手塚治虫さんの作品に親しむことで、引き出しが増えていきました。手塚作品の模写から始まり、やがて自分の絵が出来上がっていったわけです。
加藤
確かに私のマネジメントスタイルも、自分がゼロから編み出したわけではありません。これまで一緒に働いていた上司を見て参考にした部分もあれば、松下幸之助さん他、歴史に残る経営者の方々の本からもヒントを得ました。それこそ島耕作からも多くのことを学ばせていただきました。先人に学び、それを自分のものにしていく。これは頭が柔軟でなければできませんね。
さて、出世欲はなかった私ですが、社長になってよかったと思っていることがあります。
弘兼
それは何でしょう?
加藤
社長という影響力のある立場になったことで、その影響力を存分にいかし、自分の会社の発展だけでなく、業界全体の活性化や発展も実現させたいと思っています。それを私は「業界メジャーリーグ化構想」と名付け、社長就任からここまで地道に取り組んでいるところです。

弘兼
メジャーリーグ化構想とは、私も作品で使いたくなるようなキャッチーなフレーズですね。具体的に、それがどういったものなのか教えていただけますか。
加藤
もちろんです。私たちゾエティス・ジャパンが業務を行っている動物用医薬品業界、そして獣医療の世界は、仕事を通しての社会貢献度が非常に高い世界です。しかし一方、その貢献度と比べて、一般に知られていない=認知度が低いことを私はずっと疑問視してきました。日本という社会において認知度を上げることはさらに優秀な人材が業界に入ってくることにつながり、それが業界全体の発展と成長の原動力となります。発展することで動物や人間にさらに幸せを提供できる。そうしたサイクルを構築することが「メジャーリーグ化構想」の目的であり、決して大風呂敷を広げているのではなく業界トップである我々の使命だと思っています。
弘兼
島耕作と同じくらい、加藤さんもバイタリティのある社長ですね。ちなみに島耕作はいつから読んでいただいていますか?
加藤
私が最初に「課長島耕作」を読んだのは大学時代でした。大学に入ると就職など将来の進路を考えるようになりましたが、そのときはサラリーマンやビジネスの世界というのはまったく未知のものでした。それを弘兼さんの作品を通して垣間見ることができました。初芝電器産業の課長である島耕作は、作中で様々な難題にぶち当たりながらも粘り強く解決していく。その姿が非常に魅力的に感じたものです。しかも、ひとつひとつのエピソードにリアリティーがありました。弘兼さんは漫画家になる前に会社勤めを経験されていますが、そのときの体験が作品にもいかされているのでしょうか?
弘兼
あの漫画は僕が松下電器産業(現パナソニック)に3年間勤務していたときに経験した様々なことがストーリーのきっかけになっています。そこにフィクションを混ぜていくわけですが、物語の最初のとっかかりというのは、実際に当時の日本の会社で起きていたことなんですね。
加藤
実体験が元になっているから、リアリティーがあるのも当然ですね。島耕作の出世とともに作品のタイトルも「課長」から「部長」「取締役」「常務」「専務」「社長」「会長」「相談役」と変わっていきました。連載が始まったのは1983年ですが、ここまで続くとお考えでしたか?
弘兼
いや、まったくそんなつもりはありませんでした。最初、島耕作を描いたときには読み切り作品で、タイトルも「カラーに口紅」というオフィスラブものでしたからね。それが面白かったということでタイトルも改題し、連載になったわけです。当時、サラリーマン漫画はコミカルなものが多く、リアリティーのある漫画は島耕作が初めてでした。それも支持を集めた理由だと思いますね。
加藤
島耕作はサラリーマン漫画、経済漫画のパイオニアといったところですね。さて、ここでゾエティス・ジャパンの業務内容について、改めて説明させてください。ゾエティスは動物用医薬品の開発・製造・販売を手掛ける業界最大手カンパニーで、対象とする動物はまずコンパニオンアニマル(伴侶動物)、これは犬や猫といったペットになります。そのペット用の医薬品を通して、犬や猫の健康を守り、ペットとそのご家族、双方に幸せをご提供し、QOL(クオリティオブライフ)の向上に貢献しています。他に豚、牛、鶏といった畜産用の医薬品を手掛けており、人間が生きていくうえで必要不可欠な安全な食の確保に大きく貢献しています。ペット用医薬品、畜産用医薬品、どちらも社会貢献度の非常に高い仕事だと自負しています。
弘兼
ペットの幸せを守ること、そして安全な食の提供を確保すること、確かにどちらも動物だけでなく人を幸せにするために欠かせない仕事ですよね。加藤さんはその会社のトップとして、まさに島耕作のように日々、奮闘中というのが伝わってきます。対談の冒頭で「島耕作に似ていると言われる」とおっしゃいましたが、それもわかる気がしますよ。
加藤
ありがとうございます。私のことを島耕作に似ている、と言う人はこう口にするんです。「決してこびを売ることはせず、自分の信じる道を進み、バランス感覚が絶妙で粘り強い。そんなところが似ている」と。自分ではあまり意識したことはありませんが、大学時代から作品を読んでいたことで、19歳年上の島耕作をある意味、ロールモデルとして参考にさせてもらっていたのかもしれません。
ところで、弘兼さんが松下電器、今のパナソニックを25歳でお辞めにならなかったら、どのポジションまで出世していたか。それについてお考えになることなんてありませんか?
弘兼
課長くらいまではいけたでしょう。ただ、あれだけ大きな組織になると、部長になるハードルはかなり高い。部長は一応、経営陣の端っこになるんです。パナソニックのような大企業なら大出世ですよ。そういえば、大学の同窓会でこんなことがありました。成績優秀なヤツらは、ほとんどが大手企業に入リ、課長や部長になっていた。一方、成績がイマイチなヤツは小さな会社にしか行けなかった。ところが社長になるのは早いんです。同窓会に社長車でやってきた。それを見た大企業組がシュンとしている(笑)。人生の勝ち負けなんて最後までわかりません。

加藤
そういえば弘兼さんは著書で「あらゆる競争はすべて自分との戦いである」と述べられていますね。これは私の大好きな言葉のひとつです。
弘兼
ありがとうございます。「自分との戦いである」に加えて、「まあいいか、それがどうした、人それぞれ」というものもあります。これは、いわば私のモットーです。仮に大変なことがあったとしても、それを受け止め、「まあいいか」と。弱気になれば、「それがどうした」と開き直ればいい。最後の「人それぞれ」は、こう言い聞かせると自分が楽になります。そもそも、人と比べたところで、何も得することはない。「だってオレはこの世界で今、幸せだからいいんだよ」ってことですよ。
加藤
これまた勉強になります。私は、自分で自分の成長というものが感じられなくなった瞬間、自分という存在がなくなるのではないか、という思いがあります。だから他人と自分を比較すること自体、意味がある行為とは思えません。最後は自分との戦いなんですよね。今の自分に勝って、どれだけ前に進めるか……。それが大事なんだと思っています。それにしても「まあいいか」は非常にいい言葉ですね。これは決して諦めではなく、いい意味での開き直り。世の中は思い通りにいかないことだらけ、自分ではどうしようもできないことの連続です。だとしても、文句を言い始めたらきりがない。その意味で弘兼さんの三つの言葉は胸に染みました。
では最後に、この対談の恒例として、私、加藤にエールをいただけないでしょうか。
弘兼
弘兼憲史というよりも島耕作からのエールを。これからの企業のトップは、日本国内だけでなく海外にも視野を広げていかなくてはいけません。加藤さんは外資系企業のトップだから、今さら申し上げることではないかもしれませんが、やはり「シンク・グローバル」でしょうね。これからも加藤さん自身をますます高めていってください。島耕作ともども加藤さんのご活躍を楽しみにしています。
加藤
ありがとうございます。島耕作先輩は私より19歳年上です。憧れの先輩に負けないように努力していきたいと思います。弘兼さんには、これからもビジネスマンを勇気づける作品をよろしくお願い致します。