Japan
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ゾエティス・ジャパンは2013年にファイザーから独立して今年で3年。半年前には、加藤克利が代表取締役社長に就任した。異業種対談企画第2弾となる今回は、株式会社吉野家ホールディングス 会長の安部修仁氏に依頼。安部氏は〝ミスター牛丼”と呼ばれ、吉野家に襲いかかる数々の危機を乗り越えて復活と成長に導いてきた。吉野家の「逆境」の歴史は、「克服と挑戦」の歴史だという。その大きな経験を今後の成長の糧とするべく、加藤が聞き手となり安部氏にインタビューする形で進行する。

安部 修仁
SHUJI ABE

株式会社吉野家ホールディングス会長。ミスター牛丼。1949年9月14日福岡県生まれ。1967年福岡県立香椎工業高校卒業。1992年42歳で社長就任。2014年5月に代表権のない吉野家ホールディングス会長に。8月末で事業会社の社長を退任。

加藤 克利
KATSUTOSHI KATO

ゾエティス・ジャパン株式会社代表取締役社長。1966年7月4日東京都神田生まれ。大学卒業後に会社勤務を経て米国大学院に留学し、MBAを取得。2010年、ファイザーにコンパニオンアニマルビジネス統轄部長として入社。2016年5月1日49歳で社長就任。

小雨の降るある日の六本木。この日は一日雨の予報。加藤と安部修仁氏の対談は二人が初めて出会ったお店で行われた。
そのお店は、きらびやかな街の路地裏に、ひっそりとたたずんでいた。地下への階段を降りて店内に進むと、ピアノや打楽器が置かれている。壁には映画のポスターやアンティークな装飾がちりばめられ、落ち着いた革張りのソファーとこぢんまりとした机がある。「大人の隠れ家」という表現がまさにふさわしく感じられる。
加藤は対談開始時間より1時間ほど早くから準備をはじめ、少し緊張した面持ちで安部氏を待っている。取材スタッフにも緊張が伝わる。しかし、ほどなくして安部氏が現れると、一気に場の空気が変わった。「やあ、やあ」意外なほど気さくなその登場に、それまで堅い表情の加藤もやわらいだ。「僕はエンドレスで話しちゃうから止めてね」すこしかしこまる取材スタッフにそう言うと、さっそく加藤と二人で話しはじめ、取材準備の最中も和気あいあいと会話に夢中になっている。


企業は大きな転換点を
通して進化し、強くなっていく。

加藤さんは応援団が多い。それが加藤さんの人間的魅力の何よりの証。

加藤
安部さん、準備ができました。そろそろはじめましょう。まずは、私たち二人の関係性、馴れ初めからお話ししましょう。
安部氏
馴れ初めはこのお店ですよね。お会いして何度目かで言葉を交わすようになりましたよね。
加藤
しばしば同じ席でお顔を拝見し、少ししてお話しさせていただきました。安部さんの印象は、まず素晴らしく歌がうまい!リクエストにも何度も応えていただきました。あとはやはり仕事の経験談。吉野家の倒産の話にしろ、BSE問題の話にしろ、お聞きしていて身体にズシッと響く。それで熱烈なファンになりました。
安部氏
加藤さんの素晴らしさは、このお店の人や他の方から度々聞いていました。お話ししたら、聞いたとおりの本物の優れた人だった。社長に就任したときは、僕も仲間も大喜びしましたよ。仲間から社長が誕生することはよくある話ですが、加藤さんのときほどみんなが大喜びしたことはありません。応援団が多いですね。「一緒に仕事をしたい」「手助けしたい」という人が多い。本当に素晴らしい。加藤さんの人間的魅力の何よりの証だと思います。

1980年の吉野家の倒産は、価値観を対極に転換させた。

加藤
吉野家とゾエティス・ジャパンにはいくつかの共通点があります。まず、オレンジのコーポレートカラー。そして牛。牛丼ですね。弊社は犬や猫の他に、ライブストックと呼んでいる牛、豚、鶏などの畜産用の薬、そして作物の農薬も製造しています。歴史も非常に似ている。吉野家の設立が1958年。その1年前に我々が、日本において動物事業(当時はファイザーの一事業部)を開始しました。フィロソフィーである経営理念、ビジョンも似ています。吉野家の経営理念「For the People 世界中の人びとにとってかけがえのない存在になること。対して弊社は「For Animals For Health For You わが社の製品、サービス、して社員が全世界のアニマルヘルスの顧客にとって最も価値のある存在になる、ということです。
安部氏
もとより加藤さんとは想いやフィロソフィーが響き合うと感じていたのですが、会社としても共通項が多いですね。
加藤
そう言っていただけて嬉しい限りです。で、その吉野家には、大きな転換期がありましたね。1980年の倒産と、2004年のBSE問題。これらの危機は、安部さんご本人や会社にどんな影響があったのでしょうか。
安部氏
これは僕にとっても吉野家にとっても、どちらも今のDNA、すなわち次の世代に受け継いでいくべき重要事項の2大要素です。特に1980年の倒産は価値観を対極に転換させました。
1970年代の10年間は本当にすごいスピードで成長していった。その成長一辺倒という活動で、僕も組織もハードワークして、身につけることができたスキルは計り知れない。
逆に、1980年7月15日の倒産後は、対極の超安全性最優先の再建。事業目的が債権者に早く債務を返済するということになった。だからいろんなものを新しく始めるにしても、その有効性を予め確認して、うまくいくことだけに絞って実行しなければいけない。新しい発想が出た場合、店舗で仮説を検証する。大方なかなか思い通りに行かない。経済合理性が整ったものだけが全店にリリースされる。
加藤
そうとうな転換ですね。
安部氏
それまでは仮説検証なんて我々にとっては全く新しい概念で、先代松田社長が言ったものを明日から直ちに実行するための機能体が我々の組織だった。松田社長が「これやりたい!」と思ったら他に選択肢は考えない。倒産を期に、僕らは今まで良しとしていたものは駄目、今まで駄目としていたものが、良しになるという、文字通り価値観の対極への転換があった。行儀の悪いやんちゃ坊主が行儀を教わって品格みたいなものを養わされた大人になった。
加藤
弊社も今まさに転換点を迎えているところです。ゾエティスとしてはまだ歴史が浅い。ファイザーという大きな船に守られていたけれど、そこから独立し、自分たちの船で航海に出たばかりです。今の安部さんのお話を聞いて、その大きな転換点を通してまさに進化をされた、強くなってこられた、というのが私にとって心強く感じました。
安部氏
いやあ、加藤さんは今までも環境を変えながらも、次の分野でもきちんと成果を出し続けてこられた。そこで養われた技能やスキルが次のステージで発揮されているように思いますね。あと、おそらく失敗の数も多いのではないですか。僕はね、人間は失敗するものだと思っている。いっぱいチャレンジした人は結果として失敗の数は多くなるのですよ。でもその失敗がまた次のエキスや細胞になる。だから失敗をしたことがない人は、挑戦をして来なかった人なのだろうと思いますね。
加藤
そうですよね。10割バッターなんていない。10打数10安打なんてありえないですよね。
安部氏
そうそう、試合に出ていないようなものだから。バットを振らないとヒットは打てない。

覚えてもらえれば忘れにくい。最初は
違和感のあったものほど強みになる。

皆さんが慣れてくると、最初は違和感があったものほど強みになる。

加藤
今、吉野家といえば完全に確立されたブランドを築かれていらっしゃる。安部さんの著書の中で興味深いお話がありました。1985年の築地家のお話です。吉野家の牛丼を値下げして「築地家」という名前で出店したら、お客さんが減ってしまったという。
安部氏
食材も味も量も吉野家と全く同じ。クオリティを変えないそのままの牛丼を出していたのだけれども売上が落ちてしまった。牛丼を食べて「吉野家の味をマネするな」と怒ったお客さんもいましたね。
加藤
やはり、「吉野家の」ではなかったからなのでしょうか。
安部氏
そうですね。とても学びがありました。ブランドとしての評価を構築するには手間と時間がかかる。だけど失うのは一瞬。日々の努力の積み重ねでしか蓄積されない。マーケットや環境にアジャストし続ける。商品のバリュー。店舗オペレーション。やろうとしているエッセンスを上手に発信する。そういうことを全てリンクさせながら、どれも矛盾しない形でちゃんと継続して蓄積していくことが重要だと、つくづく感じましたね。
加藤
弊社は今ブランド構築の真っ最中です。私も会社のセールスマンですので、代表として会社の売り込みをどんどんしていきたいですし、マスメディアに対しても露出していくべきだと思っております。我々が一生懸命「ファイザーじゃないよ!ゾエティスだよ!」と活動することでようやく、ゾエティスという聞き慣れない会社名の認知度も、業界内で上がってきたのではないかと思っています。3年前の新会社名の発表時にはびっくりしました。濁音から始まる会社名で、英語での発音だと2 音目の「エ」のアクセントが強時にはびっくりしました。濁音から始まる会社名で、英語での発音だと2音目の「エ」のアクセントが強ませんが…。
安部氏
強くて良いとなれば、その屋号は良く感じてくる。名前が覚えにくいのは、ほかに類似するものがないから。覚えてもらえば忘れにくい。中身が強くなって、皆さんが慣れてくると最初は違和感があったものほど逆に強みになるのではないかと思いますよ。

1億円の店舗が2 つあれば、2億円の売上になる。最初に聞いたときは笑っちゃいましたけどね。

加藤
吉野家は1958年の設立で、第1 号店の築地店からはじまり国内で1,200店。海外も合わせるともう少しで2,000店を超えますよね。
安部氏
そうですね、2,000店に近いです。
加藤
ものすごいビジネスの拡大だなと思います。安部さんとお話しさせていただいて1つ印象に残っている言葉があります。「年商1億円のお店が2つあれば年商2億円になる」という言葉。目からウロコが落ちるような感動を覚えた、というお話がありましたね。
安部氏
先代松田社長の話ですね。聞いたときは笑っちゃいましたけどね(笑)。もともと、1店舗の売上を増やすことを必死に考えていた。そこに、店舗数を増やすという発想を持ち込んだ。後から考えれば当たり前の発想だけれど、それは大きな転換になりました。
加藤
それを現に実践して、そのまま倍々ゲームで拡大されていかれたのですね。
安部氏
松田社長はとにかく目標を定めたら、不可能領域なことでも遮二無二にやった。常人にしたらとんでもない目標の高さだった。定性的なことでも定量的なことでもそこへ向かうエネルギーと、それを成立させるエネルギーの強さは人間離れしていたと思います。だから、ひとつずつ後から見るともう当たり前になっていることでも、自分のポジションが変わって色んなことがわかるようになると、松田社長が進めたその工程の凄さがわかるようになるのですね。
加藤
弊社の場合も似たような概念で、成長を考えています。1億円の製品が2つあれば2億円になる。ゾエティスの研究開発力は業界で最も進んでいる。いい製品をどんどん出して成長しています。今後もこの形を続けていきたいと思っております。製品も、ただありきたりな製品を出すというのではなく、革新的な製品を出し続ける。アトピー性皮膚炎は、ワンちゃんにもあると言われています。「犬アトピー性皮膚炎」という病気で、しつこいかゆみが特徴です。今まではかゆみを抑えるために全身性ステロイド剤が多用されていました。3ヵ月ほど前(2016年7月)にステロイド剤と同じくらい早く良く効いて、かつ長期間投与できる新規の治療薬を出しました。これもまさに、イノベーティブなものかと。それ以外にも革新的な薬を出していく予定です。今後もどんどんイノベーションを追求していきたいなと考えています。

革新的な商品を販売して社会に貢献していく、というのがビジネスモデル。

加藤
イノベーションといえば、吉野家の牛丼のお肉、ショートプレートですね。元々はほとんど使われることのなかった牛の脇腹の部位。それはもう、宝物の発見ですよね。
安部氏
目の付け所が良いですね。さすが、加藤さん。もう本当にそこはコロンブスの卵でした。
加藤
どのようにして見つけたのですか
安部氏
最初は国産の厳選ものの和牛を使っていた。でも量が増えていくと和牛は一握りしかいない。条件を変えていっても、日本の処理場は120 箇所しかない
加藤
個々の規模が小さいし、全体量も少ないのですね。
安部氏
だからバラつきが多くて均一にならない。チェーンの原理は、お客様がどの吉野家でも、いつもの味とサービスを求められること。バラつきが大きいというのは致命的なのです。均一な素材を求めていったらアメリカに行き着いた。今うちが取引しているタイソンの1つの工場の処理場と、日本の全生産所が同じくらいの規模ですよ。だから本当に均一な品質になる。さらに、肉の生産量はステーキの部位が一番大きくて、そこに合わせて生産していく。だから需要が小さいものは余ります。1体200キロ。その内ショートプレートは10キロくらい。それまでショートプレートは、ミキシングしてハンバーガーのパテのようなものにしか需要がなかった。だから僕らはショートプレートを製品として買えた。吉野家でスペックを作りましてね。USショートプレートという品名で夕刊に相場が出る。あれはジャパンスペックと言われているけれど、本当は吉野家スペック。当時は、うちの言い値で好きなように調達してコントロールできました。
加藤
まさにダイアモンドの原石ですね。宝物を掘り当てた。我々も動物薬の原体、いわゆる薬のもとになる有効な成分を見つけるか否かで違ってくる。開発力というのは、有効な成分をどんどん見つけて、製品化で効な成分を見つけるか否かで違ってくる。開発力というのは、有効な成分をどんどん見つけて、製品化できるかどうかのところ。ゾエティスは研究開発力で業界一番だと自負しています。革新的製品の開発力において弊社以上のところはない。弊社の製品は決して安くないのです。プレミアム的な価格がついています。それでもお客様に使っていただいている。購入していただいた大切なお金を、さらなる革新的な商品開発につなげていきたい。決して意味もなく高い金額を設定しているわけではないのですよ。サイクルをうまく回してさらに良い製品を出して社会に貢献していく、というのが弊社のビジネスモデルなのです。
安部氏
イノベーターはそこに至るまでの研究開発や有形無形の手間暇、時間、コストがかかっている。追随する人とは全く事情が違いますね。研究開発費やスタートするまでのエネルギーも半分も使わなくて済むでしょうからね。
加藤
おっしゃる通りですね。弊社は先発系のメーカーとしてさらに勢いを付けてやっていきたいと思っております。

「なるほど!その手があったか」という
新しい感動を提供しつづけたい。

単なる物売りではなくソリューションを提供するメーカーとしてやっていく。

加藤
製品だけでなく、売り方にもイノベーションがあると思うのです。いわゆるセールスイノベーション。弊社ではSSM(ソリューションセーリングモデル)を導入しています。動物病院や生産農場など、お客様の真のニーズに応えるための顧客に合わせたオーダーメイドで価値を提供する仕組みです。直接の顧客である動物病院や生産農場への満足だけではなく、その先の顧客であるペットオーナーや消費者の満足を得るソリューションを提案する仕組みです。そのためには質問と聞き取りを繰り返して真のニーズを掴み、その上でソリューションを開発、提案しています。「なるほど!その手があったか」「これは考えたことがなかったな」というような新しい感動や驚きを提供しつづけたい。いわゆる顧客にとってのパラダイムシフトと呼ばれているものですね。大切なのは、ゾエティスの「新しい情報や考え方」を提供することにより、お客様の思考を変化させ、新たな思考の枠組みを構築し、経営へつなげていただくことだと思っています。ですので、お客様の経営面に踏み込むこともありますし、解決するための製品が弊社にない場合には、他社の製品をおすすめすることもあります。単なる物売りではなく御用聞きでもなく、ソリューションを提供するメーカーとしてやっていこうと思っています。
安部氏
心強いですね。
加藤
弊社の営業はそれを身に付けていますし、業界トップのスキルを持っています。
安部氏
良い製品をとにかく使い手に届けたいという想いが、ふさわしい製品の生産にもつながっていきますから。両方が上手く、連関しておられるのでしょう。「他と同じことをやったってしょうがないのだよ」というのが先代松田社長の口癖。その想いを実践し続けることがイノベーティブな新しい需要をつくる。他の追随をしない。色々参考にするけれど「つくりだすのは自分だ」という観念はリーディングカンパニーには必要なこと。何より痛快ですよね。加藤さんからは「これをやったら面白いだろう」とか「そうきたか」というゴールのワクワク感が、新しいものへのエネルギーになっているということを感じますね。僕も右脳人間。まずは出来上がりをいろいろイメージして、ワクワクした気持ちを感じるところからはじめます。だから加藤さんには共感するところがあるのです。

順調に伸びているときに行った業務改革「スペースプロジェクト」。

加藤
『吉野家の経済学』でも紹介されていた「スペースプロジェクト」。これは、これまでの仕事を1回リセットして、新しい仕組み、コスト構造を作り上げていくということですよね。我々も業務改革に積極的に取り組んでいるので興味があります。
安部氏
概念的には全社員が新たな未来に向けてリセットして、作り直す、考え直すという取り組みでした。
加藤
逆境ではなく、順調に伸びているときに行ったのですね。
安部氏
はい。伸びているけれどセクショナリズムにおちいっていたのです。それで既存店の売上が前年よりも落ちるという状況になった。それでも利益はそれなりに出ていて、財務も潤沢。毎年3回の期末賞与を出していた。だから太平の世の中にズッポリ浸って、みんな野放図になっていた。「スペースプロジェクト」はみんなを覚醒させるための活動でした。牛丼400円を3割引の280円にする。だけど味は落とさない。東証一部上場を行ったばっかりだったから利益も落としちゃいけない。という無理難題を強いたわけです。
加藤
人間って変化を嫌いますよね。会社でも何か大きな変化をしようとすると、嫌がる人も出てきます。そのときはどう対処していたのですか。
安部氏
まず、ゴールシーンの共有です。我々がやろうとするのは「こういうこと」で、まずは「お客さんのためだ」というゴール。もちろん何かを変えるときの初動は、まず幹部たちに共有する。その幹部が下に共有する。そのときに僕はいつも言うのだけど、施策の理解は文字ベースでもできるけど、論理を共感させるには one on one のコミュニケーションとディスカッション。腑に落ちてはじめて他の人に語れる。改革のときも新しいことをするときも十分な手間暇や時間が必要です。そして、進みだしてからは進捗の管理。大きな線表を作って、何が必要か、今どんな状態かを簡単に確認できるようにした。こうして業務改善を進めていきました。

規制緩和は、大きなステップアップにつながる。

加藤
吉野家は規制緩和も大きなステップアップにつながったと思います。具体的にはこの1991年の牛肉輸入枠の撤廃。お米は1995年の食糧管理法の廃止。これらの規制緩和が会社のステップアップにつながった面はあるのでしょうか。
安部氏
明らかに成長にも収益にもつながります。緩和されると扱う量も供給量も増えて相場が落ちる。安いコストで手に入る。量と価格の両建てで効果が出てくるから、この時期は一番利益が潤沢になります。出店スピードも上がりましたね。お米はそれまでは出店した地域の中で供給と消費を完結させなければならなかった。全国展開する中でお米の品質が決め手なのですけれども、店舗の地域をまたいではいけないという制約があったのです。吉野家の味に沿ったお米を現地で調達しなきゃいけない。どうしても価格や量で、場合によってはバラバラのところから購入しなきゃいけなかった。この緩和を経て全国に越境して流通できるようになったというのがとても大きかったです。
加藤
弊社も行政とは深く関わりがあります。この業界で大きな課題だったのが新薬承認スピード。アメリカ・EU では迅速に承認されているものが、日本では承認に時間がかかってしまうと。
安部氏
全く同じことですね。多分、エピソードも同じような…。
加藤
この業界に来たときに、経済雑誌の取材を受けて、行政の対応の遅さを正直な気持ちで批判してしまったのです。でも規制を緩和し、スピードアップしない限り業界にはプラスにならない。今日もその状態が続いていたら、おそらくここでまた同様の気持ちを話していたと思うのですが、実はその後、改善の取り組みがかなり進んできたのです。
安部氏
言った効果があったんだ!
加藤
本当に改善に向かってきていると思います。この規制緩和の動きは業界の成長の追い風になっています。具体的には、これまで海外では必要とされてなかったような試験が、日本では必須だった。そのような合理性に疑問のある試験はなくすと。今はまだ完全に実行されておりませんが。日本人は食の安全に関心が高いので、食用動物向けの牛豚鶏の医薬品については極めて慎重だったのですね。農林水産省で審議し、厚生労働省、食品安全委員会で審議されて… 今までは順番に審議されていたのですがこれを同時並行的に審議するという動きがあります。行政も業界のために何が良いのかを考えて活動していただいているのかなと素直に感じています。

本当に目を引きますね。
コピーもいきなり「かい~の」と「血ぃ吸うたろか~」。

加藤
ガラッと話を変えまして新聞広告について、率直なご感想をお伺いしたいと思います。この11月に新製品の発表に合わせて日経・朝日・読売の3つに広告を掲載しました。大きく2つの疾病に的を絞った広告なのですが、少しひねった広告をつくりました。フロントページは、ブランドの確立を目指した広告デザインに。安部さんには、その広告掲載紙をご覧いただいた感想をいただきたいです。
安部氏
はい、ではオモテから。本当に目を引きますね。コピーもいきなり「かい~の」と「血ぃ吸うたろか~」。
加藤
このビジュアルから中面につなげていきます。
安部氏
巧みなアプローチですね。この位置が違う3ヶ所というのも、すごく効いていますね。
加藤
安部さんは普段、良いものしか「良い」と言わないと知っていますので、お褒めの言葉をいただけてとても嬉しいです。
安部氏
いやあ、素晴らしいです。この広告だけでは理解できませんから疑問符を持ちますよね。そして中面広告のオチに対しての興味関心を駆り立てていますよね。
加藤
「世界でいちばん大きな、動物のための製薬会社。」というコピーで関心を持たせた上で、会社名をどーんと出しています。では、中面いってみましょうか。
安部氏
いや~(笑)衝撃ですね。
加藤
右側が「かゆみ・犬アトピー性皮膚炎について」です。これまで、やむを得ずステロイド剤で対処しなければいけなかった「かゆみ」に、即効性・安全性を兼ね備えた新しい薬があると知っていただくためのメッセージです。一般の方に興味を持っていただくために、間寛平さんのお得意の「かい~の」でアプローチしました。飼い主さんは、ワンちゃんがかゆがっているのをずっと見ていて、ワンちゃん以上に辛い思いをしているのですね。かゆくて眠れないワンちゃんが心配で夜も寝られない。かゆみの診断ができるのは獣医師だけ、だから獣医師さんに相談してください、という流れで動物病院をご紹介しています。
安部氏
かゆみに関心をもっているペットオーナーにとってはすごく重要な情報でしょう。
加藤
そして、左側が犬フィラリア症という犬の寄生虫症についての広告。こちらもイノベーティブな製品です。これまでフィラリアは、月に1回蚊のいる時期にだけ予防すると言われていますが、我々は通年予防の重要性を唱えています。獣医師さんから飼い主さんに「ワンちゃんに毎月投与してください」とお願いしてもなかなか守っていただけないことが多いのですね。そこで、フィラリアの通年予防を始めましょうと、獣医師に相談することを促しています。
安部氏
実に巧みに見る人に訴求していますね。まずそれぞれの絵柄がアイキャッチとして目を引いていますし、文字ベースでの説明もしっかり抑えられています。15段を2面使っているのですね。あらゆる要素を全部ちゃんと表現して伝えられていると思います。
加藤
ありがとうございます。安部さんにそう言っていただけて嬉しいです。

先代松田社長がよく言っていた。「50代からが勝負」だと。

加藤
安部さんが吉野家の社長になられたのは42歳のとき。私も49歳で社長になりました。40代で社長に就任した同士として何かエールをいただけたらと。
安部氏
そのままの加藤さんで(笑)。 30、40代の頃にもがき続けたことが今につながっている。蓄積された問題意識や美意識、メンタリティーはゾエティスや社長としての加藤さんに有効なものになるはず。言わずもがな、加藤さんは挑戦するだろうし、リスクを恐れないでしょう。先代松田社長がよく言っていた。「50代からが勝負」だと。50代になってみんなそれぞれの立場で影響力を発揮できるポジションになっている。だから電話1本でビッグビジネスが動く。若い頃は仕事に投下するエネルギーに対して、成功しても失敗してもインパクトは小さかった。段々バランスがとれるようになって、50代では投下するエネルギーに対して成功も失敗もインパクトが遥かに大きくなる。だから勝負は50代。伸び伸びといっぱい挑戦して、たくさん失敗するけど成功がある。ぜひ、そのままの加藤さんで。僕は50代、60代の加藤さんを見てから死にたいなあ(笑)
加藤
いやあ、心強いお言葉をありがとうございました。参考になるお話と、いつも非常に楽しく、響くお話を今回もいただきました。

対談が終わって屋外で表紙の撮影をするころ、すっかりと雨は止んでいた。肩を並べて与える二人の姿を、まだちょっとだけ濡れた路地の光が照らしている。実に良い顔の二人だ。師弟関係にも、仲の良い親子にも見えてくる。取材を終えた二人は、なかなか帰ろうとはしない。時計は宵の刻を示している。思えばなじみのお店。これからやっとプライベートの時間になる。まだまだ二人の話は尽きそうもない。