作用機序・薬効薬理
パラディア錠(有効成分:トセラニブリン酸塩)は血管新生の阻害と腫瘍細胞の増殖抑制をターゲットとした抗腫瘍効果を示します。
犬の肥満細胞腫におけるトセラニブの役割
トセラニブは複数のRTKに作用し、腫瘍の増殖や血管新生、転移に関係するチロシンキナーゼ活性を阻害します。 トセラニブは、クラスⅢの血小板由来成長因子受容体(platelet-derived growth factor receptor:PDGFR)および幹細胞因子受容体(stem cell factor receptor:SCFR)(KIT)、クラスVの血管内皮増殖因子受容体2(vascular endothelial growth factor receptor 2:VEGFR-2)(Flk-1/KDR)を標的分子としています。
犬では肥満細胞腫の30〜50%において、クラスⅢのRTKであるKITをコードするc-kit遺伝子に遺伝子内縦列重複(internal tandem duplications : ITD)変異を起こしていることが知られており、本剤はこれらのRTKの活性を抑制することにより腫瘍細胞の細胞周期を停止させ、アポトーシスを引き起こして、抗腫瘍効果を発揮すると考えられます。
出典:申請資料
以下に示すin vitro、in vivoの試験により、パラディア錠は、VEGFR-2、PDGFR、KITの複数の受容体を選択的に阻害することが確認されました。
トセラニブの各種キナーゼ活性に対する阻害作用(in vitro)
トセラニブは酵素レベルまたは細胞レベルのin vitro試験において、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR-2)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)および幹細胞因子受容体(KIT)に対し、阻害作用を示しました。
Kiは阻害定数を、IC50は50%阻害濃度を示す。
*1 EGFR:上皮成長因子受容体、IC50を測定。 *2 PDGFR:血小板由来成長因子受容体(PDGFR-βを用いた)
*3 FGFR-1:線維芽細胞増殖因子受容体-1 *4 VEGFR-2:血管内皮増殖因子受容体-2(Flk-1) *5 SCFR:幹細胞因子受容体(KIT)
出典:申請資料
トセラニブのKITでのリン酸化抑制作用(in vitro)
野生型(変異なし)、JM(細胞膜近傍)領域における点突然変異型、JM領域でのITD*型および触媒領域における点突然変異型のKITが発現する、4種の肥満細胞のセルラインを用いてリン酸化の抑制を確認した試験において、トセラニブはすべての細胞においてリン酸化を抑制しました。
* ITD:遺伝子内重複縦列
出典:申請資料
トセラニブの活性(in vitro)
肥満細胞腫に罹患した犬にトセラニブ3.25mg/kg経口投与後、11頭のうち8頭の犬の皮膚病変において、KITのリン酸化が抑制されました。
試験概要(in vivoにおけるトセラニブの活性)
【対象】 | 再発あるいは転移が認められる病理学的な腫瘍グレードⅡ/Ⅲの肥満細胞腫に罹患している犬(有効性評価頭数:11頭) |
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【方法】 | 投与前およびトセラニブとして3.25mg/kgを単回経口投与後8時間に、6mmのパンチバイオプシーで病変試料を採取し、病変試料におけるKITのリン酸化を評価した。 |
【評価基準】 | 検出可能な総タンパクが存在している病変試料を評価可能な試料とし、投与後に採取された試料中の総タンパクに対するリン酸化タンパク量が、投与前の試料と比較して50%以上減少した場合に、トセラニブによるリン酸化の抑制がされたとした。 |
出典:申請資料
警告
- (1)
- 本剤の投与にあたっては、緊急時に十分対応できる獣医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ獣医師のもとで、本療法が適切と判断される症例についてのみ実施すること。
- (2)
- 治療開始に先立ち、飼主に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。また、本剤は生殖発生毒性を有することから、安全な取扱いについて使用者に十分な投薬指導をすること。
- (3)
- 本剤の投与により、浮腫や肺血栓性塞栓症を含む血栓塞栓症に至る血管障害を引き起こすことがある。臨床症状や臨床検査値に異常が認められた場合は、これらが正常になるまで投薬を中止すること。本剤適用症例に外科的手術を行う場合は、本剤の投与を中止して3日以上経過してから行うこと。
- (4)
- まれに、消化管穿孔を含む重篤な消化管合併症が発生し、死亡にいたった例があることから、消化管潰瘍が疑われる場合は投薬を中止し、適切な処置をすること。