Japan
印刷 印刷
Zoom Zoom
Text Size

特別座談会 犬の嘔吐の治療および管理の実際と対応(3)

 

滝口
このたびファイザー社より、犬用の制吐剤「セレニア®」が新しく発売されましたが、実際に先生方が臨床現場で使われてみて、率直な感想を聞かせていただけますか?
竹内
私の病院では最近、胃腸障害の強い膵炎の診断確率が非常に高くなっていまして、嘔吐症状や悪心を抑えることは、膵炎の患者の対処法として最も重要であると感じています。嘔吐が治まったら、まずは流動食や電解質バランスのとれた経口補液を与えるというのが治療の最初の目標になりますから、そういう意味では制吐作用の効果が優れているセレニア®は、なくてはならない存在となっています。そして、この薬剤の一番の魅力は持続性が長いことです。ほかの薬剤では3~4時間ごとの投与が必要であったり、定量持続点滴で注入しなくてはならないのが、セレニア®は24時間作用が持続するため、1日1回の投与で済みます。これは軽度の嘔吐症状を呈する患者に対しては、「院内において注射剤を投与し、錠剤を1~2回分ぐらい出して自宅へ帰してあげて、異常があったらすぐ来てください」という使い方ができるのではないでしょうか。嘔吐症状だけで、軽度の胃炎の患者であれば、それで治療が終わってしまうことがあります。
滝口
感想としては、非常に有効性が高く、持続時間も長いので、制吐剤としては非常に良い評価のようですが、米元先生と峯岸先生はいかがですか?
米元
私の病院では、膵炎の患者も含めて、いろいろな症例で使ってみましたが、どの患者でもほとんどが効果的であったように記憶しています。また、錠剤と注射剤の2つの剤型があることもうれしい点です。嘔吐を呈している場合、経口からの投与を受けつけない、薬を吐きもどしてしまうといったことも決してまれではありません。そのようなときに注射剤で対応できるのは助かります。
峰岸
私もこの薬剤を使用して制吐できなかったという経験はなかったように思っています。それと作用時間が長いので、病院で患者を預かったりしなくて済むのが助かります。自宅へ帰してあげられれば飼い主さんの負担も少なくて済むでしょうし、飼い主さんは夜、一緒に寝て様子を見ていてくれますので、経過をよく観察してもらえます。そ ういった意味でこの薬が発売されて本当によかったと思います。
滝口
大学病院でもいろいろな症例に適用されていると思いますが、いかがですか?
大野
私の経験でも、この薬剤は制吐作用の効果がかなり高いという印象が強いです。大学病院は一般の動物病院と違って重症例の患者が多く入院し、ヘッドアップもままならない患者がたくさんいます。そういった患者のなかには入院中に誤嚥を起こすケースが少なくありません。誤嚥を防ぐためにも、病気の種類にかかわらず、「嘔吐をとりあえずこの24時間は止めたい」という状況に遭遇することが多く、そういった患者に対して注射剤で長時間嘔吐を抑えられるというのは非常に助かります。また、大学病院では夜間の宿直が若手獣医師であることが多いため、点滴留置針が閉塞するなど不測の事態が生じたときに、皮下投与で対応できる薬剤はとても使い勝手がよく、担当獣医師に安心して任せることができます。
滝口
私が経験したことですが、胃癌の症例で手術を選択しないケースがありました。こういったケースのときに予後不良であれば安楽死も一つの選択肢ですが、飼い主さんの希望で安楽死は選択されないことが多いと思います。「何としてでも吐き気を抑えてあげたい…」というときにセレニア®がよく効いてくれた経験があります。ほかの薬剤では症状を抑え切れないケースで、セレニア®によって患者のQOLを高める可能性を大いに感じました。比較的早期にみつかった癌症例では手術を試みるという場合もありますが、そういったケースでも、手術までの期間、セレニア®をうまく使って嘔吐をコントロールするという使い方ができると思います。

【参考】おもな上部消化器疾患治療薬(情報提供:東京大学 大野耕一 先生)

薬剤分類作用機序薬剤名
制吐薬ドパミンD2 受容体拮抗薬メトクロプラミド
セロトニン5HT3 受容体拮抗薬オンダンセトロン
フェノチアジン系鎮静薬クロルプロマジン
プロクロルペラジン
ヒスタミンH1 受容体拮抗薬ジフェンヒドラミン
NK1受容体拮抗薬マロピタント
消化管運動改善薬ドパミンD2 受容体拮抗薬メトクロプラミド
セロトニン5HT4 受容体作動薬モサプリド
マクロライド系抗菌薬エリスロマイシン(モチリン作用薬として)
 胃酸分泌抑制剤 ヒスタミンH2 受容体拮抗薬 ファモチジン
 ラニチジン
プロトンポンプ阻害薬オメプラゾール
ランソプラゾール
胃粘膜保護薬粘膜抵抗強化薬スクラルファート
プロスタグランジンE製剤ミソプロストール(NSAIDSの潰瘍予防として)

【参考】新製品「セレニア®」(成分:マロピタント)の作用機序

 

滝口
セレニア®の効果に関しては皆さん一致した意見をもっておられるようですが、使用法に関して気をつけたほうがいい点などはありますか?
大野
やはり診断に関することでしょうか。軽症例と重症例の線引きは難しいところがありますが、「最初からセレニア®を投与すべきか」ということには議論があってしかるべきではないかと思います。制吐効果が得られることによる安心感で、病気の診断を遅らせてしまうようなことがあってはいけません。まだ診断がついていない状況で使用する際には、獣医師側でそのことをきちんと認識しておかなければならないと思います。
滝口
先ほど胃癌の症例でQOLの改善に効果があった話を出しましたが、逆にいえば、そういった胃癌などの器質的な変化が起きている症例であるにもかかわらず、症状が改善されてしまうため、その診断が遅れてしまうということも大いにあり得ると思いますので、そのあたりを注意喚起できればいいですね。一般の動物病院においてセレニア®の使い方で注意していることはありますか?
峰岸
確かにセレニア®は持続時間も長いし、効果が高い薬剤なので、ほかの症状が出てくるのを見逃して診断が遅れてしまうようなことにならないように、そういうところは気をつけます。
滝口
しかし、飼い主さんにとっては、吐かなくなるというのは、それを求めて病院に行っているわけですから、獣医師も使いたくなる気持ちはよくわかりますね。
竹内
副作用についても注意しなくてはなりませんが、全般的にいうと、従来の薬剤に比べて副作用が少ないというのがセレニア®の一番のメリットだと思います。たとえば、メトクロプラミドによる錐体外路症状や、クロルプロマジンによる鎮静作用や血圧の低下など、そういった副作用を考えるとそれらの薬剤を適用できない症例などにとっては、セレニア®はとてもいい薬であると感じます。本当によく効く制吐剤ですから、診断さえ誤らなければ、確実に嘔吐を抑えてくれます。
大野
効かない薬で悩むより、効く薬が選択肢としてあるというのは、とてもありがたいですね。獣医師側として気をつけなければいけない点はありますが、世界標準になりつつある効果的な制吐薬が国内で入手可能になったのはうれしいことです。
滝口
去の症例で、激しい嘔吐があり、誤嚥まで至らないにしても急速に循環器系が悪くなったケースがあったのですが、そういう症例にもセレニア®を適用することによって、かなり改善される可能性があると考えており、新薬としては非常に期待できるということで、本座談会をまとめさせていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。

〒151-0053  東京都渋谷区代々木3-22-7新宿文化クイントビル 14F